付録:研究計画をLLMと壁打ちする
この付録は、本編で説明した研究計画書の作り方を、LLMとの壁打ちという視点からまとめたものです。本編と同じ4つのマイルストーンをたどりながら、各段階で考えること、残すもの、LLMへの頼み方を確認します。
LLMには、仮案や選択肢を作ってもらえます。ただし、分からない事実を補わせたり、最終的な判断を任せたりはしません。事実と制約を伝え、案を選び、根拠を原典で確かめ、採用した内容に責任を持つのは研究者です。
LLMには、分からないことを埋めてもらうのではなく、自分で判断するための質問と選択肢を出してもらいます。
各マイルストーンで、その時点で決まっている情報をLLMへ渡します。
- 提出先の様式、評価基準、字数、締切、想定読者
- 現在のテーマ、研究問題・目的・RQ・意義の案
- 確認済みの文献と事実
- 利用できそうな対象、資料、データ
- 期間、費用、技能、対象へのアクセス
- 所属機関の倫理審査様式と、気になっている倫理上の問題
まだ作っていない項目や決まっていないことは、「未定」「要確認」と書きます。また、LLMには、事実、自分の見立て、LLMからの提案、要確認事項を分けてもらいます。大きく書き直す前には質問してもらい、複数の案があるときは、それぞれの利点と弱点を比べてもらいます。
マイルストーン1:研究問題・目的・RQの仮案を作る
対応する本編:1. 計画書で答える4つの問い、2. 提出先が求める事項を確認する、3. 研究問題・目的・RQの仮案を作る
本編の要点
研究計画書では、「何を明らかにするのか」「なぜ明らかにする必要があるのか」「どう明らかにするのか」「本当に実行できるのか」を説明します。最初に提出条件と使える資源を確認し、広い関心から研究できるテーマへ絞ります。そのうえで、研究問題→研究目的→RQを主線としてつなぎ、意義も含めた仮案を作ります。
研究目的は「何を明らかにするか」、意義は「それが分かると何が変わるか」です。研究目的の短いメモは目的文に書き直し、RQでは、目的を資料やデータを使って答えられる問いに具体化します。
この段階では、未解決性や新規性をまだ断定しません。何が確認済みの事実で、何が現在の見立てなのか、文献調査で何を確認するのかを分けておきます。また、期待どおりの結果が出たときだけ価値がある研究になっていないかも確かめます。
ここで残すもの
- 提出条件と制約のメモ
- 関心領域、テーマ、研究問題、目的文、RQ、意義の仮案
- 確認済みの事実、現在の見立て、要確認事項
LLMと壁打ちする
以下の情報だけを使い、
関心領域とテーマを具体化し、研究問題(仮)→目的文(仮)→
RQ(仮)がつながる案を3つ作ってください。
各案では、それが分かると何が変わるのかを意義(仮)として別に示してください。
最初に、不足している重要な情報を5つまで、一問ずつ質問してください。
各案では「確認済みの事実」「現在の見立て」「要確認」を分けてください。
先行研究の不足や研究の新規性を、与えた情報なしに断定しないでください。
研究方法はまだ決めず、各案の違いと弱点も説明してください。
【提出条件と制約】
[ ]
【現在の関心とメモ】
[ ]
LLMが出した案は完成稿ではありません。自分が本当に調べたい案を選び、その理由と、次に文献で確かめることを残します。
マイルストーン2:文献調査で研究を洗練する
対応する本編:4. 文献調査で研究を洗練する
本編の要点
まず、RQから検索とレビューの軸になる重要なフレーズを抜き出し、それぞれについて文献を探します。1文献につき1つのメモを作り、必要に応じて「落合陽一氏の6つの問いで読む」方法も使います。次に、文献をただ並べるのではなく、共通する問い、理論、知見、方法をもつ研究群として整理します。
文献を比べるときは、一致する点だけでなく、食い違う点、まだ説明できていないこと、前提の違いにも注目します。その結果に照らして、研究問題、目的、RQのつながりを更新し、意義も見直します。なぜ変えたのかも記録します。先行研究の蓄積に照らして、RQで求める答えが、現象の記述・探索、過程や理由の説明、競合する説明の比較、因果関係の検討、適用範囲の確認のどれなのかも見直します。先行研究のギャップを探すだけでなく、既存研究が当然としている前提を問い直すことも、研究を洗練する方法です。
NotebookLMに資料を入れている場合は、資料を横断して比較する相手として使えます。その場合も、与えた資料だけを使わせ、回答には文献名と章・節を付けてもらいます。示された箇所は、あとで原典を確認します。
ここで残すもの
- 1文献につき1つの文献メモ
- 研究群ごとの統合メモ
- 更新した研究問題、目的文、RQ、意義
- 変更した点と、その理由
- のちに研究計画書のイントロダクションになる骨組み
LLMと壁打ちする
次のRQから、検索とレビューの軸になる重要なフレーズを抜き出してください。
そのうえで、添付した資料だけを使い、各フレーズについて、
使われている用語や定義、分かっていること、食い違う説明、
まだ分からないこと、置かれている前提を整理してください。
文献を共通する問い・理論・知見・方法ごとの研究群にまとめ、
私の研究問題・目的・RQについて、
「残す」「修正する」「いったん撤回する」を理由つきで提案し、
意義もあわせて見直してください。
各指摘には文献名と章・節を付け、資料から判断できないことは
「要確認」としてください。
【現在の研究問題・目的・RQ・意義】
[ ]
LLMの整理を、そのまま文献レビューにはしません。根拠を確かめたあと、自分の言葉で研究群を比べ、仮案を更新します。
マイルストーン3:研究デザインを作る
対応する本編:5. 問いから研究アプローチを選ぶ、6. 研究の質と限界を考える、7. 倫理とデータ管理を考える、8. 実行可能性を証拠で示す
本編の要点
研究アプローチは、使いたい方法ではなく、RQが求める答えから選びます。まず量的研究、質的研究、混合研究から、答えとデータの組み立てを考えます。アートベース研究や地域参加型研究を行う場合は、芸術的実践や地域との協働をその組み立てにどう加えるかも考えます。アプローチを選んだら、それに合う形へ目的文とRQを具体化します。
研究アプローチを選んだら、RQから、必要な証拠、対象やデータ源、収集方法、分析方法、そこから主張できる範囲までをつなぎます。RQを置かない研究では、研究目的や探究したいことから考えます。その内容をもとに、何を明らかにしたいのか、どう明らかにするのかを、シングルスペース2ページ以内のTwo-Pagerにまとめます。文脈、背景、文献の説明は少なめにし、まず第5章までの初稿を作ります。
その初稿を読みながら、研究アプローチに応じて、量的研究では信頼性と妥当性、質的研究では解釈の信用性、混合研究では二つの結果をどう結びつけるかを確かめます。どの研究でも、対策をしてなお残る限界と、主張できる範囲を決めます。
倫理とデータ管理は、所属機関の倫理審査様式を確認し、募集、同意、収集、保存、共有、廃棄までを具体化します。実行可能性については、対象へのアクセス、期間、技能、費用、許可、リスク、代替策を、単なる希望ではなく根拠とともに示します。第6〜8章で決めた内容を反映し、Two-Pagerを更新します。
ここで残すもの
- 選んだ研究アプローチと、その理由
- アプローチに合わせて具体化した目的文とRQ
- 第5章で作ったTwo-Pagerの初稿と、第8章までの検討を反映した更新版
- 研究の質を脅かす問題、対策、残る限界、主張できる範囲
- 所属機関の様式に沿った倫理・データ管理計画
- 工程、必要な資源、主要なリスク、代替策
LLMと壁打ちする
次の研究目的とRQに適している研究アプローチを2案示してください。
各案について、どのような答えが得られるのか、何が得られないのか、
必要な対象・データ・収集・分析、研究の質を確かめる方法、
残る限界、倫理上の問題、実行可能性のリスクを簡潔に説明してください。
不足している情報は、案を作る前に質問してください。
2案を示したところで止まり、私が選ぶまで先へ進まないでください。
【研究目的とRQ】
[ ]
【利用できる対象・データ・資源・期間】
[ ]
案を選んだら、RQと証拠、方法をつないでからTwo-Pagerの初稿を作ります。
RQごとに、RQ→必要な証拠→対象・入手先→収集方法→分析方法→
主張できる範囲を簡潔に整理してください。その内容と次の資料だけを使い、
「何を明らかにするのか」と
「どう明らかにするのか」を中心としたTwo-Pagerの初稿を作ってください。
シングルスペースで2ページ以内を想定し、文脈、背景、文献は
必要最小限にしてください。決まっていないことは補わず、
「未定」または「要確認」としてください。
【研究目的とRQ】
[ ]
【選んだ研究アプローチと利用できる対象・データ・資源・期間】
[ ]
初稿を作ったら、第6〜8章の観点から検討します。
次のTwo-Pagerの初稿について、次の点を短い箇条書きで確認してください。
1. 予定する主張→研究の質を脅かす問題→対策→残る限界→主張できる範囲
2. 所属機関の様式に沿った、研究前、募集・同意、収集、分析、報告後の倫理上の対応と、データ管理の「何を・誰が・いつまで」
3. アクセス、期間、技能、費用、許可について示せる根拠、工程と並行作業、主なリスク、代替策
倫理上・法的に実施できるかを断定せず、確認先と要確認事項を示してください。
今回はTwo-Pagerを書き直さず、私が修正方針を選ぶまで止まってください。
【Two-Pagerの初稿】
[ ]
【所属機関の倫理審査様式】
[ ]
指摘を検討したら、採用する修正だけを伝え、Two-Pagerを更新してもらいます。
RQを置かない研究では、RQを研究目的や探究したいことに読み替えてください。
RQやアプローチを変えた場合は、第3・4章へ戻って研究問題→目的→RQのつながりと意義を確認し、データ、分析、研究の質、限界、倫理、工程も見直します。一部分だけを直すと、計画全体にずれが残ります。
マイルストーン4:研究計画書を作る
対応する本編:9. 標準的な章立て、10. 説得的に書く、11. よくある失敗と直し方、12. 良い研究計画書を6つの基準で点検する
本編の要点
ここまでに作った研究問題・目的・RQと意義、研究デザインを、提出先の指定に沿って一つの文書にまとめます。指定がなければ、第9章の標準的な章立てを土台にします。先行研究レビューで研究のベースにする理論的・概念的枠組みが見つかった場合は、それも説明します。倫理とデータ管理は所属機関の様式に合わせ、期待する貢献、成果の届け先、限界も書きます。
計画書は、口頭で補わなくても内容が伝わる自立した文書にします。段落には一つの仕事を持たせ、同じ概念には同じ用語を使います。推敲は、文の言い回しからではなく、全体の構造、段落、文の順で進めます。
よくある失敗を直すときは、まず研究を実施できるか、次に集めるデータと分析からRQに答えられるか、最後に研究の価値が伝わるかを確認します。そのあと、第12章の6つの基準で全体を点検します。特に論理的整合性、実行可能性、倫理的責任に問題があれば、文章を磨く前に研究デザインへ戻ります。
ここで残すもの
- 指定形式に沿った研究計画書
- 参考文献一覧と必要な付録
- 6つの基準による点検結果
- 修正した箇所と、その理由
LLMと壁打ちする
まず、これまでに作った材料を計画書の形へ並べます。
提出先の様式を最優先にして、これまでのメモを配置するアウトラインを
作ってください。各節の役割、使うメモ、字数の目安を示し、
情報がない箇所、内容が重複する箇所、根拠が不足する主張を指摘してください。
資料にない内容は補わず、この段階では本文を書かないでください。
【提出先の様式・字数】
[ ]
【これまでに作ったメモ】
[ ]
全体を書いたら、最初から全文を書き直させず、まず読み手として診断してもらいます。
隣接分野の審査者として、添付した研究計画書を読んでください。
最初に、この研究の「何を」「なぜ」「どうやって」「実行できるか」を
それぞれ1〜2文で要約してください。要約が本文から読み取れない場合は、
推測で補わず「不明」としてください。
次に、論理的整合性と一貫性、実行可能性と現実性、学術的価値と意義、
方法論の厳密さと証拠の妥当性、倫理的責任、
明瞭性と自立した文書としての品質を、赤・黄・緑またはN/Aで点検してください。
赤は必要な情報がないか矛盾している状態、黄は根拠・具体性・つながりが
足りない状態、緑は根拠・選択理由・限界を含めて整合している状態です。
N/Aには理由を付けてください。修正効果の大きい問題を3つに絞り、
該当箇所、問題である理由、著者に確認したいこと、修正の方向を示してください。
研究を実施できるか、データと分析からRQに答えられるか、
研究の価値が伝わるかの順で、修正の優先順位を決めてください。
論理的整合性、実行可能性、倫理的責任が赤なら、文章ではなく
研究デザインの修正を優先してください。
期待どおりの結果が出なくても価値がある計画か、
どのような場合に結果を判定できなくなるかも確認してください。
今回は本文を書き直さず、資料にない事実・文献・方法を追加しないでください。
【提出条件と評価基準】
[ ]
【研究計画書】
[ ]
指摘を検討して修正方針を決めたあとなら、指定した節だけをLLMに推敲してもらえます。その際は、新しい事実、文献、方法を加えず、内容を変えた箇所と表現だけを整えた箇所を分けて示してもらいます。
LLMに任せないこと
書誌情報、引用、事実は原典で確認します。研究の新規性、研究アプローチや方法に関する重要な判断、倫理的・法的な可否は、LLMの回答だけでは決めません。必要に応じて、指導教員、研究方法の専門家、所属機関、倫理審査委員会へ確認します。
個人を特定できる情報、参加者の生データ、未公開の機密情報は、外部のLLMへ安易に入力しません。利用するサービスの規約、所属機関の方針、提出先の生成AI利用ルールも確認します。
研究計画書の著者と研究上の判断に責任を持つ人は、あくまで研究者です。LLMを使った箇所の開示が必要な場合は、提出先の規定に従います。
LLM自体を研究に使う場合
LLMをデータ生成、分類、分析、参加者との対話などに使う場合、LLMは壁打ち相手ではなく、研究方法の一部になります。サービスとモデル、利用日、設定、プロンプトの役割、人による確認、出力の検証方法、データの送信先と保存先を記録し、研究デザインと倫理審査に反映します。
最後に、対話の経緯を知らない人や新しいチャットのLLMへ計画書だけを渡し、「この研究は何を、なぜ、どうやって明らかにするのか。本当に実行できるのか」と尋ねてみてください。返ってきた説明が自分の意図とずれるなら、文書だけでは研究の筋道がまだ伝わっていません。