付録:研究計画をLLMと壁打ちする
LLMが提案した目的文を読んで納得しても、その根拠まで確かめたことにはならない。文章の形が整うほど、未確認の前提を見落とさないようにする必要がある。LLMへは確認済みの事実と制約を渡し、その範囲で仮案や選択肢を作ってもらう。
提案の根拠は、研究者が原典で確かめる。採用するかどうかの判断と、採用した内容への責任も研究者が持つ。本編の4つのマイルストーンで作るメモを使えば、決まったことと、これから確かめることを分けて対話できる。RQを明示しない研究では、「RQ」を「研究目的や探究したいこと」と読み替える。
LLMには、自分で判断するための質問と選択肢を出してもらう。未確認の事実を補わせないようにする。
各マイルストーンで、その時点で決まっている情報をLLMへ渡す。
- 提出先の様式、評価基準、字数、締切、想定読者
- 現在の研究課題、目的、RQ、意義の案
- 確認済みの文献と事実
- 利用できそうな対象、資料、データ
- 期間、費用、技能、対象へのアクセス
- 所属機関の倫理審査様式と、気になっている倫理上の問題
この情報のうち、まだ決まっていない項目は「未定」、確認が必要な項目は「要確認」と書く。LLMの回答でも、事実、自分の見立て、LLMからの提案、要確認事項を分けてもらう。提案が複数あれば利点と弱点を比べて選び、大きく書き直す前には、LLMから不明点を質問してもらう。
マイルストーン1:研究課題、目的、RQの仮案を作る
対応する本編:1. 計画書で答える5つの問い、2. 研究課題、目的、RQの仮案を作る
本編の要点
研究計画書では、「何を」「なぜ」「何のために」「どうやって」「本当に実行できるか」を説明する。まず5項目のメモを作り、提出条件や使える資源なども書き留める。そのうえで、研究課題、研究目的、研究質問(RQ)、意義の順に仮案をまとめる。
仮案では、研究を必要とする問題や状況を研究課題として示す。それを受けて、今回扱う対象の範囲と明らかにする側面を研究目的として定め、目的文にする。その内容を資料やデータで答えられる問いに具体化したものが、RQである。RQへの答えによって誰の理解や判断がどう変わるかは、研究の意義として示す。
RQを複数置く場合は、それぞれに必要なデータと、答えを合わせて何を明らかにできるかを確かめる。本編の例では3つ置いているが、その数に固定する必要はない。研究目的を達成するために必要な問いを選ぶ。
この段階の仮案は、次の文献調査で見直す。また、期待どおりの結果が出たときだけ価値がある研究になっていないかも確かめる。
ここで残すもの
- 「何を」「なぜ」「何のために」「どうやって」「本当に実行できるか」のメモ
- 提出条件と制約のメモ
- 研究課題、目的文、RQ、意義の仮案
LLMと壁打ちする
以下の5項目のメモと提出条件だけを使い、
研究課題(仮)→目的文(仮)→RQ(仮)がつながる案を3つ作ってください。
研究課題に対して、どの対象のどの側面を調べるのかを選び、目的文とRQに反映してください。
各案では、それが分かると何が変わるのかを意義(仮)として別に示してください。
RQの数は固定せず、各RQに答えるために必要なデータの候補を示してください。
複数のRQへの答えが、研究目的にどうつながるかも説明してください。
メインRQとサブRQを置く場合は、それぞれの対応を示してください。
最初に、不足している重要な情報を5つまで、一問ずつ質問してください。
先行研究の不足や研究の新規性を、与えた情報なしに断定しないでください。
研究方法はまだ決めず、各案の違いと弱点も説明してください。
【提出条件と制約】
[ ]
【5項目のメモ】
何を:[ ]
なぜ:[ ]
何のために:[ ]
どうやって:[ ]
本当に実行できるか:[ ]
LLMが出した案は完成稿ではない。自分が本当に調べたい案を選び、その理由と、次に文献で確かめることを残す。
マイルストーン2:文献を踏まえて問いと意義を明確にする
対応する本編:3. 文献調査で研究を洗練する、4. 研究計画書の導入を組み立てる
本編の要点
先行研究をもとに、何をさらに明らかにする必要があり、それがなぜ重要かを考える。RQから検索とレビューに使う言葉を抜き出し、見つけた文献を読んで、1文献につき1つのメモを作る。必要に応じて「落合陽一氏の6つの問いで読む」方法も使える。
文献メモが集まったら、問い、理論、知見、方法などの共通点で研究群にまとめる。研究群どうしを比べ、一致する点に加えて、食い違う点、まだ説明できていないこと、前提の違いを整理する。その結果をもとに研究課題、目的、RQと意義を見直し、変更した理由を記録する。
RQでどのような答えを求めるかも、先行研究の蓄積に照らして見直す。現象の記述、探索、過程や理由の説明、競合する説明の比較、因果関係の検討、適用範囲の確認などが考えられる。先行研究の不足を探すほかに、当然とされている前提を問い直すこともできる。
NotebookLMに資料を入れている場合は、複数の資料を比べる相手として使える。与えた資料だけを使わせ、回答には文献名と該当する章や節を付けてもらう。示された箇所は、あとで原典を確認する。
ここで残すもの
- 1文献につき1つの文献メモ
- 研究群ごとの統合メモ
- 更新した研究課題、目的文、RQ、意義
- 変更した点と、その理由
- 研究計画書の導入の下書き
LLMと壁打ちする
次のRQから、検索とレビューの手がかりになる言葉を抜き出してください。
そのうえで、添付した資料だけを使い、それぞれの言葉について、
使われている用語や定義、分かっていること、食い違う説明、
まだ分からないこと、置かれている前提を整理してください。
問い、理論、知見、方法などの共通点で文献を研究群にまとめ、
私の研究課題、目的、RQについて、
「残す」「修正する」「いったん撤回する」を理由つきで提案し、
意義もあわせて見直してください。
各指摘には文献名と該当する章や節を付け、資料から判断できないことは
「要確認」としてください。
【現在の研究課題、目的、RQ、意義】
[ ]
LLMの整理を、そのまま文献レビューにはしない。根拠を確かめたあと、自分の言葉で研究群を比べ、仮案を更新する。更新した仮案を第4章のテンプレートに沿ってつなぎ、導入の下書きを作る。
マイルストーン3:問いに答える方法を具体化する
対応する本編:5. 問いから研究アプローチを選ぶ、6. 研究の質と実施条件を確かめる
本編の要点
見直したRQに答えるため、対象、資料やデータ、収集方法、分析方法を具体化する。程度や差を知りたいのか、経験や過程を理解したいのかによって、必要なデータは変わる。先行研究の方法も参考にしながら、問いに合う量的研究、質的研究、混合研究などの研究アプローチを選ぶ。
混合研究を選ぶなら、量的な知見と質的な知見を統合して何を明らかにするかを示す。アートベース研究や地域参加型研究では、芸術的実践や地域との協働をどう組み込むかも検討する。
選んだアプローチに合わせて、目的文とRQを具体化する。RQへの答えを理論的な根拠から予測し、検証する場合は、その予測を仮説として示す。事前に立てた予測と、結果を見てから考えた説明は区別する。
具体化したRQについて、必要な証拠、対象やデータの入手先、収集方法と分析方法、主張できる範囲を整理する。RQを置かない研究では、研究目的や探究したいことから考える。考えた内容を「何を明らかにしたいのか」「どう明らかにするのか」の順に並べたメモが、Two-Pagerの初稿である。文脈、背景、文献の説明を必要な範囲に絞って、2ページ以内に書く。
Two-Pagerの初稿ができたら、予定したデータと方法がRQへの答えをどこまで支えられるかを検討する。量的研究では信頼性と妥当性、質的研究では解釈の信用性を確かめ、混合研究では両方に加えて二つの結果の結びつけ方も考える。どの研究でも、対策をしてなお残る限界と、主張できる範囲を示す。
先行研究の方法を参考に、対象や資料を得られるか、何を学ぶ必要があるかを考える。文献調査や方法の学習から、収集、分析、執筆までの予定を立て、使える時間や資源に合う規模にする。
予定したデータと方法は、倫理とデータ管理の面からも見直す。所属機関の倫理審査様式に沿って、募集から同意、収集、保存、共有、廃棄までの手続きを具体化する。これらの手続きも、研究を実行するための条件に含める。ここまでの検討で変えたRQや方法をTwo-Pagerにも反映する。
ここで残すもの
- 選んだ研究アプローチと、その理由
- アプローチに合わせて具体化した目的文とRQ、必要に応じて仮説
- 第5章で作ったTwo-Pagerの初稿と、第6章の検討を反映した更新版
- 研究の質を脅かす問題、対策、残る限界、主張できる範囲
- 文献調査から執筆までの大まかな予定と、実施に向けて確認が必要な点
- 所属機関の様式に沿った倫理とデータ管理計画
LLMと壁打ちする
次の研究目的とRQに適している研究アプローチを2案示してください。
各案について、何に答えられ、何には答えられないのか、
対象の選び方、必要なデータ、その収集方法と分析方法、研究の質を確かめる方法、
残る限界、倫理上の問題、実行可能性のリスクを簡潔に説明してください。
不足している情報は、案を作る前に質問してください。
2案を示したところで止まり、私が選ぶまで先へ進まないでください。
【研究目的とRQ】
[ ]
【利用できる対象、データ、資源、期間】
[ ]
案を選んだら、RQに答えるための証拠と方法を整理し、Two-Pagerの初稿を作る。
RQごとに、RQ→必要な証拠→対象と入手先→収集方法→分析方法→
主張できる範囲を簡潔に整理してください。その内容と次の資料だけを使い、
「何を明らかにするのか」と
「どう明らかにするのか」を中心としたTwo-Pagerの初稿を作ってください。
2ページ以内を想定し、文脈、背景、文献は
必要最小限にしてください。決まっていないことは補わず、
「未定」または「要確認」としてください。
【研究目的とRQ】
[ ]
【選んだ研究アプローチと利用できる対象、データ、資源、期間】
[ ]
初稿を作ったら、第6章の三つの観点から検討する。
添付したTwo-Pagerの初稿を、次の3点から確認してください。
結果は短い箇条書きで示してください。
1. 研究の質:予定する主張を脅かす問題、その対策、残る限界、
主張できる範囲がつながっているか。
2. 実行可能性:先行研究の方法と自分の条件を比べ、必要な資料やデータ、
技能、時間を見込んでいるか。文献調査から執筆までの予定と、
実施に向けて確認が必要な点が整理されているか。
3. 倫理とデータ管理:研究前、募集、同意、収集、分析、報告後の対応が、
所属機関の様式に沿っているか。何を、誰が、いつまで管理するかが明確か。
倫理や法律の面で実施できるかを断定せず、確認先と要確認事項を示してください。
今回はTwo-Pagerを書き直さず、私が修正方針を選ぶまで止まってください。
【Two-Pagerの初稿】
[ ]
【所属機関の倫理審査様式】
[ ]
Two-Pagerを更新するときは、採用する修正と、その影響を確認する。LLMの指摘を検討し、採用する修正だけを伝える。RQやアプローチを変えた場合は、第2章と第3章へ戻り、研究課題と目的がつながっているか、研究の意義を示せるかを確かめる。あわせて、データ、分析、研究の質、限界、倫理、工程への影響も見直す。
マイルストーン4:研究計画書を作る
対応する本編:7. 研究計画書にまとめる、8. 良い研究計画書を6つの基準で点検する
本編の要点
問いと方法が自分の中でつながっていても、そのつながりを読者が読み取れるとは限らない。研究課題、目的、RQ、意義、研究デザインを、一つの文書にまとめる。構成は提出先の指定に従い、指定がなければ第7章の標準的な章立てを使う。
研究の土台とする理論や概念がある場合は、それらの関係と、RQや方法の選択にどう関わるかも説明する。倫理とデータ管理は所属機関の様式に合わせ、期待する貢献、成果の届け先、限界も書く。
必要な内容を書きそろえたら、口頭の補足なしに伝わるかを確かめる。段落は一つの主題に絞り、前の説明を受けて要点を述べ、根拠や具体例を続ける。文の前半には既出の話題を置き、後半で新しい情報を加える。
同じ概念には同じ用語を使い、必要な条件や不確実性を残す。文を短くそろえるために、説明の根拠まで削らないようにする。推敲は、全体の構造、段落、文の順に進める。
第8章の6つの基準で全体を点検する。問いに答えられない、実施の見通しが立たない、参加者を守れないといった問題があれば、文章の推敲より先に、問いや方法、実施条件を見直す。
ここで残すもの
- 指定形式に沿った研究計画書
- 参考文献一覧と必要な付録
- 6つの基準による点検結果
- 修正した箇所と、その理由
LLMと壁打ちする
まず、これまでに作った材料を計画書の形へ並べる。
提出先の様式を最優先にして、これまでのメモを配置するアウトラインを
作ってください。各節の役割、使うメモ、字数の目安を示し、
情報がない箇所、内容が重複する箇所、根拠が不足する主張を指摘してください。
資料にない内容は補わず、この段階では本文を書かないでください。
【提出先の様式、字数】
[ ]
【これまでに作ったメモ】
[ ]
全体を書いたら、最初から全文を書き直させず、まず読み手として診断してもらう。
隣接分野の審査者として、添付した研究計画書を読んでください。
最初に、この研究の「何を」「なぜ」「何のために」「どうやって」「本当に実行できるか」を
それぞれ1〜2文で要約してください。要約が本文から読み取れない場合は、
推測で補わず「不明」としてください。
次に、計画の一貫性、実行可能性、研究の意義、研究の質と限界、
倫理とデータ管理、文章の明瞭さを、赤、黄、緑または「適用外」で点検してください。
赤は必要な情報がないか矛盾している状態、黄は根拠、具体性、つながりが
足りない状態、緑は判断に必要な説明や根拠があり、他の節とも整合している状態です。
「適用外」には理由を付けてください。修正効果の大きい問題を3つに絞り、
該当箇所、問題である理由、著者に確認したいこと、修正の方向を示してください。
研究を実施できるか、データと分析からRQに答えられるか、
研究の価値が伝わるかの順で、修正の優先順位を決めてください。
問いに答えられない、実施の見通しが立たない、参加者を守れない場合は、
文章の推敲より先に、問いや方法、実施条件の見直しを優先してください。
期待どおりの結果が出なくても価値がある計画か、
どのような場合に結果を判定できなくなるかも確認してください。
今回は本文を書き直さず、資料にない事実、文献、方法を追加しないでください。
【提出条件と評価基準】
[ ]
【研究計画書】
[ ]
指摘を検討して修正方針を決めたら、必要な節を指定してLLMに推敲してもらう。その際は、新しい事実、文献、方法を加えないよう伝える。内容を変えた箇所と、表現だけを整えた箇所も分けて示してもらう。
LLMに任せないこと
書誌情報、引用、事実は原典で確認する。研究の新規性、研究アプローチや方法に関する重要な判断、倫理や法律の面での可否は、LLMの回答だけでは決めない。必要に応じて、指導教員、研究方法の専門家、所属機関、倫理審査委員会へ確認する。
個人を特定できる情報、参加者の生データ、未公開の機密情報は、外部のLLMへ安易に入力しない。利用するサービスの規約、所属機関の方針、提出先の生成AI利用ルールも確認する。
研究計画書の著者と研究上の判断に責任を持つ人は、あくまで研究者である。LLMを使った箇所の開示が必要な場合は、提出先の規定に従う。
LLM自体を研究に使う場合
LLMをデータ生成、分類、分析、参加者との対話などに使う場合は、LLM自体が研究方法の一部になる。次の事項を記録し、研究デザインと倫理審査に反映する。
- 使用したサービスとモデル、利用日、設定
- プロンプトの役割
- 人による確認と、出力の検証方法
- データの送信先と保存先
最後に、対話の経緯を知らない人や新しいチャットのLLMへ計画書だけを渡し、「この研究は何を、なぜ、何のために、どうやって明らかにするのか。本当に実行できるのか」と尋ねてみる。返ってきた説明が自分の意図とずれるなら、文書だけでは研究の筋道がまだ伝わっていない。