7. 倫理とデータ管理を考える
第5章で決めた対象や入手先、収集方法、分析方法をもとに、参加者との接触から成果の公開までを、倫理とデータ管理の面から見直します。まず所属機関の倫理審査のフォーマットと手引きを確認し、求められている項目に沿って考えます。審査が不要な研究でも、参加者の保護とデータ管理の検討が不要になるわけではありません。
この章では、必要な保護と手続きを決めます。それらの承認や許可を期限内に得られる見通しは、第8章で実行可能性として確認します。
7.1 参加者を守る手続きを決める
研究を始める前に、倫理審査と研究協力先の許可が必要かを確認し、利益相反や、参加しにくい立場にある人への配慮を整理します。参加を依頼するときは、研究の目的、参加内容、予想される利益とリスク、参加が任意であること、撤回できる範囲・期限・手順、問い合わせ先を、相手が理解できる形で伝えます。
組織の管理者や、参加者への接触を取り次ぐ人から許可を得ても、それが一人ひとりの自由意思による同意に代わるわけではありません。長期研究や参加型研究では、同意を一度だけの署名と考えず、研究の変化に応じて参加者の意思を確認し直します。
データを集める間は、研究者と参加者の力関係や負担、録音・撮影、謝礼、研究者自身の安全について考えます。予想外の重要な情報や、誰かに危害が及ぶおそれのある情報が出てきた場合に、誰へ相談し、どう対応するかも決めておきます。
分析と報告では、都合の悪い結果や少数意見を消さず、個人が再び特定されるおそれ、結果を参加者へ返す方法、データや成果の所有について検討します(Leavy, 2017, 第2章; Bryman & Bell, 2011, 第5章; Creswell & Creswell, 2018, 第4章)。
7.2 個人情報とデータを管理する
仮名化と匿名化の違いは、データをあとから本人に結び付けられるかどうかです。仮名化は、氏名を研究用の番号に置き換えても、対応表を使えば本人に結び付けられる状態です。匿名化は、対応表を破棄するなど、本人に結び付けられず、元に戻せない形で処理した状態です。研究中に本人へ結び付け直す必要があるなら、「匿名化済み」とは書けません。仮名を使っていても、役職、経歴、引用内容の組み合わせから本人が分かる場合があるため、再び特定される可能性も確認します。
データ管理では、何を残すか、誰が扱うか、いつ消すかを具体的にします。本人を識別する情報と研究データをどう分けるか、対応表をどこに保管するか、誰にアクセスを認めるか、暗号化とバックアップをどう行うか、どの範囲で共有するか、いつ廃棄するかを決めます。
参加者が撤回した場合に、どの段階までデータを除去できるかも定めます。匿名化した後、集計した後、公開した後では、除去できる範囲が変わるためです。参加者を守りながら、研究の判断過程を必要な範囲で確かめられるよう、残す記録と廃棄する情報を分けます(Leavy, 2017, 第2章; Saunders, Lewis & Thornhill, 2007, 第6章)。
7.3 研究中の変化に備える
倫理は、審査で決めた手続きを守れば終わりではありません。研究の現場で予想外の問題にどう対応するかという状況的倫理や、参加者との関係、尊厳、相互性をどう大切にするかという関係的倫理も考えます(Leavy, 2017, 第2章)。
研究中に手続きを変える必要が生じたら、判断と相談の記録を残し、倫理審査の変更申請や再審査が必要かを確認します。リスクを十分に減らせない場合や、適切なデータ管理ができない場合は、RQ、対象、収集方法、分析方法まで戻って計画を見直します。RQを変える場合は、研究問題、目的、意義もあわせて確認します。
このガイドが参照している文献に書かれた法制度やデータ保護のルールは、刊行時点のものです。研究を実施するときには、現行法に加え、所属機関、学会、研究協力先の最新規程を確認してください。
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