3. 研究問題・目的・RQの仮案を作る
研究テーマを考えることと文献調査のどちらを先にするかに、唯一の正解はありません。このガイドでは、まず自分がやりたい研究を、研究問題・目的・RQの仮案として書きます。この段階では、先行研究のギャップや研究の新規性を断定しません。確認できていない点は「要確認」として残し、次章の文献調査で確かめます。
3.1 全体像の仮案を作る
以下の6項目は、広い関心からテーマを絞り、研究問題、目的、RQを一続きにして、意義もあわせて確認するための暫定的なメモです(Booth et al., 2016, 第3〜4章)。
広い関心を研究できる問いへ近づけるために、6項目を順に考えます。
- 関心領域:出発点となる広い領域です
- テーマ:その領域のうち、実際に研究する対象、現象、文脈です
- 研究問題(仮):テーマについて、まだ説明・理解・検証されていないと考える点や、知見どうしの食い違いを示します。まだ確かめていない点は「要確認」とします
- 研究目的(仮):この研究で何を明らかにしたいのかを示します
- RQ(仮):その目的に向けて、資料やデータを使って何に答えるのかを示します
- 意義(仮):答えが分かることで、誰の理解や判断がどう変わりうるのかを示します
たとえば、「リモートワーク」という関心領域から始めると、次のように具体化できます。
関心領域 :リモートワーク
テーマ :リモート環境のソフトウェア開発チームにおける意思決定
研究問題(仮):自律性が高いはずなのに、意思決定が一部メンバーへ集中する場合がある。
その過程が先行研究でどこまで説明されているかは要確認
研究目的(仮):意思決定が一部メンバーへ集中する過程を明らかにする
RQ(仮) :分散チームでは、どのような相互作用を通じて意思決定の集中が生じるのか
意義(仮) :分散協働の理解を深め、チーム設計の判断材料につながる可能性がある
ここで書いた「自律性が高いはず」「集中する場合がある」は、調査済みの事実とは限りません。確認できている事実、自分の見立て、文献で確認することを混同しないようにします。
3.2 関心領域からテーマを絞る
関心領域は、自分が広く関心を持っている領域です。「リモートワーク」のように、研究の出発点にはなりますが、それだけでは対象や現象が広すぎて、何を調べるのかはまだ決まりません。
テーマは、関心領域のうち、この研究で実際に扱う部分です。主に次の点を具体化します。
- 誰や何を対象にするか
- どの現象に注目するか
- どのような場や文脈で調べるか
- 必要であれば、どの時期を扱うか
たとえば、関心領域が「リモートワーク」なら、「リモート環境のソフトウェア開発チームにおける意思決定」まで絞ったものがテーマです。
このガイドでは、作業しやすいように関心領域とテーマを区別します。ただし、「テーマ」という言葉を関心領域と同じくらい広い意味で使う分野や提出先もあります。その場合も、対象、現象、文脈を具体化する作業は必要です。
テーマを絞っただけでは、何を疑問に思い、何を明らかにしたいのかは示せません。それを次の研究問題で考えます。
3.3 疑問から研究問題の仮案を作る
研究問題は、英語の research problem に当たります。日本語では「研究課題」と呼ばれることもあります。テーマについて、知識や理解のどこに未解決の点や食い違いがあるのかを示したものです。ここでいうproblemは、日常語の「困った出来事」だけを指すわけではありません。
実際の社会や現場で解決したいことは、実践的な問題です。一方、「なぜこうなるのか分からない」「この説明では腑に落ちない」「この前提は本当に成り立つのか」といった疑問は、理解や知識にかかわる研究上の問題になります(Booth et al., 2016, 第4章; Creswell & Creswell, 2018, 第1・5章)。
3.1の例も、「意思決定の集中は悪い」と決めつけているわけではありません。自律的に働くことが期待されるチームでも意思決定が集中する場合があり、その過程がどこまで説明されているか分からない、という状態を研究問題の仮案にしています。
この時点では、自分の疑問が先行研究ですでに答えられている可能性もあります。確認済みの事実と自分の見立てを分け、未確認の点には「要確認」と付けます。次章で文献を調べ、研究問題を残すのか、狭めるのか、別の疑問へ変えるのかを判断します。
3.4 仮の研究目的を目的文にする
3.1では、研究目的を「この研究で何を明らかにしたいのか」という短いメモで仮置きしました。ここでは、そのメモを、1文の目的文に書き直します。テンプレートは以下になります。
本研究の目的は、[対象・文脈]における[現象]の
[この研究で明らかにしたい側面]を明らかにすることである。
たとえば、3.1で仮置きした研究目的は、次のように書き直せます。
本研究の目的は、リモート環境のソフトウェア開発チームにおいて、意思決定が一部メンバーへ集中する過程を明らかにすることである。
研究目標を求められた場合
提出先によっては、研究目的に加えて研究目標を求められることがあります。研究目標は、研究目的を具体的な到達点に分割したものです。「文献を読む」のような活動名ではなく、「比較する」「特定する」「評価する」のように、達成したかどうかを確認できる動詞を使います。
3.5 RQの仮案を作る
研究問題が未解決の点や食い違いのある状態を示すのに対して、RQは、資料やデータを使ってどこまで答えるのかを定めた問いです。目的文に清書した研究目的を、この問いの形に具体化します。1つのRQでは扱いにくい場合は、必要に応じて複数のRQに分割します。最初の仮案では、対象、中心となる現象や概念、文脈、どのような答えを求めるのかを確認します。
研究デザインを選ぶ前の仮案は、次の骨格から始められます。
[対象・文脈]において、[中心となる現象・概念・関係]は、
[どのようなものか/どのように生じるのか/なぜ生じるのか/何とどう関係するのか]
3.1の例は、このうち「どのように生じるのか」の型です。
研究質問では、「大きすぎる」「小さすぎて意味がない」「アクセスや倫理の面から扱えない」という3つの極端を避けます。自分の期間、技能、環境で答えられる大きさに調整します。複数のRQを置く場合は、全体で一つの論証になるように関連づけます。
3.6 意義を確かめる
研究目的は「この研究で何を明らかにするか」を示します。これに対して、意義は「それが分かると何が変わるか」を示します。目的を言い換えただけでは、意義を説明したことにはなりません。
先ほどの例では、「意思決定が一部メンバーへ集中する過程を明らかにする」が研究目的です。「分散協働の理解を深め、チーム設計の判断材料につながる可能性がある」が意義に当たります。
意義には、問いに答えることで何を理解・説明できそうか、どの前提を問い直せそうかを書きます。実務への応用が考えられる場合は、誰のどのような判断に役立ちそうかも加えます。これらは仮案なので、先行研究に照らして妥当かどうかを次章で確認します。
3.7 研究問題・目的・RQをつなぐ
研究問題以降の仮案を、次の形で一度まとめます。研究目的には、3.4で清書した目的文を使います。先行研究をまだ調べていないことは欠点ではありません。未確認のまま断定せず、次に何を確かめるかが分かる状態にしておくことが大切です。
研究問題(仮):
目的文(仮):
RQ(仮):
意義(仮):
確認できている事実:
現在の見立て:
文献で確認すること:
次の6点を確認できたら、文献調査へ進みます。
- 研究問題はテーマの言い換えではなく、取り組む疑問や未解明点を示していますか
- 目的文は、研究問題を受けて「何を明らかにするか」を示していますか
- RQに答えれば、研究目的を達成できますか
- 研究目的と関係のないRQが混ざっていませんか
- 意義は研究目的の言い換えではなく、「それが分かると何が変わるか」を示していますか
- 未確認のことを、事実のように断定していませんか
次章では、この仮案を裏づける文献だけを集めるのではなく、自分の見立てと先行研究が合っているかを確かめます。そのうえで、必要なら研究問題・目的・RQを書き換え、意義も見直します。
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