5. 問いから研究アプローチを選ぶ

第4章では、先行研究を踏まえて研究問題、目的、RQを更新しました。ここでは、そのRQがどのような答えを求めているかを確認し、適している研究アプローチを選びます。自分が得意な手法から決めるのではなく、問いから考えます。

研究アプローチは、研究をどう組み立てるかという大きな方針です。その方針のなかで、調査、実験、インタビュー、ケーススタディなど、具体的な進め方を決めていきます。大まかな対応は次のようになります。

問いの中心 適しているアプローチ 計画書で特に説明すること
程度、分布、関係、差、効果、予測 量的研究 概念を測定可能な変数にする方法、標本設計、測定の信頼性・妥当性、統計分析
経験、意味、過程、実践、文脈、理論生成 質的研究 情報を得るための対象選び、研究者の立場、収集・分析過程、解釈の信用性
一種類のデータだけでは説明が足りない問題 混合研究 二種類のデータが必要な理由、実施の順序と優先度、統合する時点、統合から得られる理解

量的研究、質的研究、混合研究は、どのような答えを、どのようなデータから組み立てるかという違いです。アートベース研究と地域参加型研究は、芸術的実践や地域との協働を、研究の進め方にどう組み込むかに関わります。そのため、たとえば質的なアートベース研究や、量的データと質的データを使う地域参加型研究のように、両者を組み合わせることもあります。

Creswellらは、質的研究、量的研究、混合研究に異なる目的文とRQのテンプレートを用意しています。第3章で仮置きし、第4章で見直した目的文とRQを、研究アプローチを選んだあとで以下の形に書き直します(Creswell & Creswell, 2018, 第6〜7章)。

以下では、研究アプローチごとに、目的文とRQの形を見ていきます。

5.1 量的研究

量的研究では、値や分布の記述、変数間の関係、群の比較、介入などの効果、予測のうち、何を問うのかを示します。対象となる母集団と、主な概念も明記します。結果の方向を予測できるだけの理論的な根拠がある場合は、仮説を立てます。

目的文のテンプレート

本研究の目的は、[調査/実験などのデザイン]によって、
[必要に応じて、理論・モデルを検証するため、][母集団/対象者]を対象として[調査場所]で、
[アウトカムを記述する/変数間の関係を調べる/群を比較する/効果を調べる/予測する]
ことである。必要に応じて[媒介・調整・統制変数]を扱う。
本研究では、[主要な変数]を[概略的な定義]と定義する。

RQのテンプレート

量的研究のRQは、目的文と同じ用語を使います。変数間の関係や効果を問う場合は、説明や予測に使う変数を先に、結果となる変数を後に置きます。

記述:[対象者]における[変数]の値や分布は、どのようなものか
関係:[対象者・調査場所]では、[独立変数]と[従属変数]に
   どのような関係があるか
比較:[群A]と[群B]では、[従属変数]にどのような違いがあるか
効果:[対象者・調査場所]では、[介入/対象となる要因]は[アウトカム]に
   どのような効果をもたらすか
予測:[対象者・調査場所]では、[予測変数]は[アウトカム]を
   どの程度予測するか

効果を問う場合は、原因と結果を述べられる研究デザインが必要です。それが難しければ、「効果」ではなく「関係」を問います。

理論を検証する場合は、「[理論]は、[媒介・統制変数]を考慮したとき、[独立変数]と[従属変数]の関係を説明するか」と書けます。

5.2 質的研究

質的研究では、広い中心質問から補助質問へと進みます。参加者にとっての意味や、出来事の過程を、早い段階で狭めすぎないようにします。

目的文のテンプレート

本研究の目的は、[質的デザイン]を用いて、[調査場所]の[参加者]にとっての
[一つの中心現象]を[理解/探索/展開/生成/発見]することである。
現段階では、[中心現象]を[暫定的な定義]と捉える。

RQのテンプレート

中心となるRQは、「何」または「どのように」で始め、一つの中心現象を広く尋ねます。

[調査場所]の[参加者]にとって、[一つの中心現象]はどのようなものか
[調査場所]の[参加者]は、[一つの中心現象]をどのように経験・理解しているか

何を尋ねるかは、研究デザインによって変わります。たとえば、ナラティブ研究なら物語、現象学なら経験の意味、グラウンデッド・セオリーなら過程、エスノグラフィーなら文化的パターン、ケーススタディなら事例内の論点に焦点を合わせます。

5.3 混合研究

混合研究では、量的質問と質的質問に加えて、両方を統合すると何が分かるのかを示します。これは、全体目的または混合研究質問として明記します。

目的文のテンプレート

本研究は、[全体として明らかにしたいこと]に取り組む。
そのために[収束型/説明的順次型/探索的順次型など]の混合研究デザインを用いる。
量的部分では、[対象者・調査場所]について[理論・変数・量的データと分析]を扱う。
質的部分では、[参加者・調査場所]について[中心現象・質的データと分析]を扱う。
両者を用いる理由は、[結果の比較/量的結果の説明/尺度や介入の開発など]であり、
[統合する時点と方法]で二つの結果を結びつける。

RQのテンプレート

混合研究のRQは、二つの結果を統合して初めて答えられる問いにします。方法、研究内容、またはその両方を前面に出せます。

方法を尋ねる:[質的データ]は、[量的結果]をどのように説明・補完するか
内容を尋ねる:[質的に見いだしたテーマ]は、[量的に見いだした傾向や関係]を
       どのように説明するか
統合して尋ねる:二つの結果を統合すると、[全体の研究問題]について何が分かるか

CreswellらとLeavyは、量的RQまたは仮説、質的RQ、混合研究RQを分けて置くことを勧めています。ただし、学術誌などで発表された研究にも、独立した混合研究RQを置いていないものがあります。置かない場合でも、何のために二種類のデータを統合するのかは、目的文に示します(Creswell & Creswell, 2018, 第7章; Leavy, 2017, 第6章)。

混合研究を選ぶ場合は、量的研究と質的研究の一方だけでは、なぜRQに十分に答えられないのかを説明します。量的研究と質的研究を並行して結果を合わせる収束型、量的結果を質的研究で詳しく説明する説明的順次型、質的結果をもとに量的段階を組み立てる探索的順次型などがあります。2種類のデータを別々に集めるだけでなく、どの段階で、何のために結びつけるのかまで考えます(Creswell & Creswell, 2018, 第10章)。

5.4 アートベース研究・地域参加型研究の場合

アートベース研究や地域参加型研究を選ぶ場合も、量的研究、質的研究、混合研究のどれか一つと必ず置き換えるわけではありません。どのようなデータから答えを組み立てるかに加えて、芸術的実践や地域との協働を、研究にどう組み込むかを考えます。

アートベース研究には、研究質問を必須としない進め方もあります。研究目的と芸術的な実践を、使用する媒体、制作・解釈の過程、参加者や内容をどう表すか(表象)、想定する観客、研究面・芸術面の評価基準と結びつけます。

地域参加型研究では、問題、目的、RQを誰が決めるのかも、研究デザインの一部です。地域の共同研究者との役割分担、意思決定権、資源、データの所有、共同分析、成果の返し方、研究から行動へのつなげ方を具体的に示します。状況に応じて進め方が形づくられる研究(創発的な研究)でも、何を、いつ、誰が判断するのかは書いておきます。

以降、このガイドで「RQ」と書く箇所は、RQを置かない研究では「研究目的や探究したいこと」と読み替えてください。

5.5 Two-Pagerの初稿にまとめる

PunchのTwo-Pagerは、次の2点をシングルスペースで2ページ以内に書く作業メモです。

  1. 何を明らかにしたいのか
  2. それをどう明らかにするのか

この順に、できるだけ明確かつ直接的に書きます。背景、文脈、先行研究の説明は中心にしません。「どう明らかにするのか」には、必要な資料・データ、対象・入手先、収集方法、分析方法を書きます。そこから何を主張できて、何を主張できないかも確認します。

うまくつながらない場合は、RQか研究アプローチを見直します。RQを変える場合は、第3・4章へ戻り、研究問題→目的→RQのつながりと意義も確認します。ここでは現時点の問いと方法で初稿を作り、第6〜8章で研究の質、倫理、対象へのアクセス、実行可能性を検討したあとに更新します。

Two-Pagerは最終的な計画書でも、必須の提出様式でもありません。ほかの人に読んでもらい、「何を、どう調べる研究に読めたか」を言い換えてもらうと、説明のずれを見つけやすくなります(Punch, 2016, 第8章)。

LLMを使う場合も、完成稿の代筆ではなく、このような読み返しや質問に使えます。具体的な進め方は、研究計画をLLMと壁打ちするで紹介しています。


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