11. 論文執筆のための読書案内

論文の書き方を本で学ぶときは、原稿のどこを直したいかを先に確かめる。研究の問題と知見の対応を見直したい場合と、一文の意味や段落のつながりを整えたい場合では、読む箇所と試す助言が異なる。構成、日本語表現、段落、論証を点検するための6冊を、原稿の課題に合わせて紹介する。

選んだ本の助言を使い、何をどの根拠で述べているかが読者に伝わるよう、原稿の説明を具体化する。構成や研究方法に関する助言は、研究の目的、採用した方法、投稿先と照合して用いる。本ガイドの執筆に用いた版と参照箇所は、参考文献と読みどころに示している。

この章に載せた3冊のKindle版へのリンクは、2026年9月22日にAmazon.co.jpで販売表示を確認した版へのものである。石黒の本は、本ガイドで参照した旧版と、リンク先の新版を区別している。

11.1 原稿の課題に合う本を選ぶ

主に使う5冊について、点検する内容と原稿で試すことをまとめた。表の作業は、本ガイドで提案する点検方法である。

点検する内容 本 原稿で試すこと
主題と全体の構成 『図解でわかる!理工系のためのよい文章の書き方』 研究の問題と知見を短く書き、各部分がその説明につながるかを確かめる。
研究の問題と先行研究との関係 『基礎からわかる 論文の書き方』 何をどの資料や方法で調べ、先行研究に何を加えるかを書き出す。
日本語表現 『この1冊できちんと書ける! 論文・レポートの基本』 主語と文末、修飾語のかかり先、否定や比較の範囲を確かめる。
段落とそのつながり 『日本語パラグラフ・ライティング入門』 各段落の要点と、それを支える情報、前後の段落との関係を確かめる。
主張と根拠 『シカゴ・スタイルに学ぶ論理的に考え、書く技術』 結論を支える根拠と、読者から問われそうな説明の不足を書き出す。

構成には第2章、段落には第3章、日本語表現には第7章と第8章を対応させて読める。原稿を推敲するときは、第10章も使い、全体、段落、一文、引用や図表の順に点検する。

11.2 論文の構成と先行研究との関係を点検する

『図解でわかる!理工系のためのよい文章の書き方』

福地健太郎(文)、園山隆輔(図解)(2019)、翔泳社。本ガイドで参照したのは初版の電子版であり、2024年刊の増補改訂版とは区別している。参照箇所と適用範囲。

主題を短く示し、読者に必要な情報を選び、問題と結果が対応する構成を作るために読める。手元の原稿では、要旨と結論に書いた知見を比べ、それを本文のどの資料や説明が支えるかを確かめる。図解を見ながら、語順、修飾関係、主語と述語を点検する用途にも使える。

論文構成の詳説は実験系の理工系論文にやや偏るため、手法の提案や開発現場の調査を報告する原稿では、各部分の役割を研究内容に合わせて考える。何を示す論文かを確かめ、採用した研究方法と照合しながら、説明の順序や詳しさを調整する。

『基礎からわかる 論文の書き方』

小熊英二(2022)、講談社(講談社現代新書)。本ガイドでは2022年発行の電子版を参照した。参照箇所と適用範囲。

研究の問題、対象、資料と方法、先行研究との関係をまとめて説明したいときに読める。原稿の導入では、何を明らかにしたいか、なぜその対象や方法を選んだか、既存の研究に何を加えるかを対応させる。先行研究を紹介する際には、対象が似ている研究に加え、方法や理論的な考え方を引き継ぐ研究も検討する。

本書には社会科学の実証研究を扱う例が多い。例に示された研究の問題、対象、方法、貢献先の関係を、自分の原稿でも説明できるかを確かめる。個々の調査法や評価法は、その方法を扱う専門文献と合わせて検討する。

11.3 日本語表現を点検する

『この1冊できちんと書ける! 論文・レポートの基本』

石黒圭、日本実業出版社。本ガイドでは2015年発行の旧版の電子書籍を参照した。旧版の参照箇所と適用範囲。2024年刊の新版(Kindle版)へのリンクも載せているが、本文の出典は旧版である。

用語、動詞と文末、修飾関係、否定や比較の範囲、接続詞を点検するために読める。書名にはレポートも含まれるが、この章では研究論文の日本語を直す用途で紹介している。原稿から意味が曖昧な一文を選び、誰の判断か、何をどの条件で述べているかを確かめながら、語順と文末を直す。

表現を整えたあとも、資料が支える内容と主張の強さが変わっていないかを確かめる。「と考えられる」という文末だけでは、その判断の根拠を示せない。調査の報告、参加者の説明、著者の解釈を区別する点検には、第7章も使える。

11.4 段落と文の働きを点検する

『日本語パラグラフ・ライティング入門:読み手を迷わせないための書く技術』

松浦年男、田村早苗(2022)、研究社。Kindle版。本ガイドの参照箇所。

一段落の要点と範囲を定め、中心文を具体的な情報で支え、段落どうしをつなぐために読める。手元の原稿から一段落を選び、冒頭の要点をどの文が支えているかを確かめる。次に各段落の要点だけを並べ、説明が重複していないか、必要な前提が抜けていないかを調べる。

『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』

阿部幸大(2024)、光文社。本ガイドの参照箇所と適用範囲。

文ごとの働きを確かめる「パラグラフ解析」を、段落の点検の補助手法として使える。資料を示す文、その意味を説明する文、主張につなぐ文を見分けると、足りない説明を探しやすい。第3章の作例も、この点検方法を用いている。

本書の論文観には文学研究や文化研究の背景がある。本ガイドでは文章の点検に使う助言を取り入れ、論文全体の構成や学術的な価値を判断する基準は、研究の目的と分野に合わせて考える。段落の字数やすべての段落を同じ論証の型にすることを、一律の条件にはしない。

11.5 主張と根拠を照合して推敲する

『シカゴ・スタイルに学ぶ論理的に考え、書く技術:世界で通用する20の普遍的メソッド』

吉岡友治(2015)、草思社。Kindle版。本ガイドの参照箇所。

読者の疑問を見据え、主張、例、根拠を対応させるために読める。原稿では、自分の結論に対して根拠を問われそうな箇所を選び、その根拠と、そこから結論へ進む説明を書き出す。説明が足りないのか、資料自体が足りないのかを分けると、加筆と追加の検討を使い分けられる。

推敲では、主張を広げるほど必要な根拠も増えることに注意する。一つの対象で得た結果を広い対象へ当てはめたり、出来事の順序を原因と結果に変えたりした文は、その判断を資料が支えるか確かめる。第1章と第6章を使い、結論の範囲と根拠の対応を点検できる。


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