10. 読者が検討できる原稿に仕上げる

原稿が一通りそろったら、まず全体の主張と説明の順序を確かめる。節や段落を移す必要がある段階で語尾まで整えると、移動後に文のつながりを直すことになるためである。全体から節と段落、最後に一文の表現へと、修正する範囲を絞って進める。

日程に余裕があれば、草稿からいったん離れ、時間を置いて読み返す1。修正に迷う箇所は、元の文を残したまま複数の候補を書き並べ、読み比べる。記憶だけに頼らず、どの案が判断の主体、根拠、条件を明確にするかを確かめて選ぶ。

10.1 原稿全体の主張と説明を照合する

全体の点検では、題目、要旨、序論、結論を続けて読む。序論で立てた問いに結論が答えているか、題目と要旨もその問いと答えに合っているかを確かめる。たとえば、本文では「期限間近に入手しやすさを優先したと話す学生もいた」と述べているのに、要旨には「学生は入手しやすい文献を選ぶ」と残っているかもしれない。その場合は、要旨にも対象と条件を戻す。

次に、各段落の要点を一文ずつ書き出し、元の順番で並べる。同じ説明が続いていれば、段落をまとめられないか考える。まだ紹介していない資料や用語が突然出てきたら、先に必要な説明を置く。一つの段落の要点を一文にまとめられない場合は、別の論点が混ざっていないかを調べる。段落の統合や移動を済ませてから文を整えると、同じ箇所を何度も直す作業を減らせる2。

点検は全体の主張と構成、段落の根拠と順序、一文の主体と語順と語尾、引用と図表の順に進める。中央の矢印は点検順、右側の戻る矢印は修正後に原稿全体の対応を再確認することを示す。
図10-1 点検の範囲を絞り、修正後に全体を照合する。

10.2 根拠をたどって説明が足りない箇所を探す

主張の根拠をたどれない箇所を見つけたら、何が足りないかを分けて考える。同じ「説明不足」でも、次の三つでは直し方が異なる。

原稿の状態 直すこと
根拠となる資料はあるが、本文に示していない 出典や該当する発言などを示す。
資料は示したが、主張とのつながりを書いていない 資料のどこから何を読み取ったかを説明する。
示した資料からは、その主張を導けない 主張を確認できる範囲に限定するか、資料や分析を見直す。

たとえば、一人の発言から「職場全体で情報共有が改善した」と述べているなら、発言の説明を増やしても職場全体の根拠にはならない。その参加者自身の経験についての主張へ絞るか、職場全体を調べる必要があるかを再検討する。

自分では説明の不足を見つけにくいときは、試読してもらう。先に口頭で補足せず、何を主張する論文と読めたか、どの根拠に納得したか、ほかの解釈もできそうな箇所があったかを尋ねる。著者の意図と読者の理解を比べると、自分の頭の中だけで補い、原稿には書いていなかった説明を見つけやすくなる。

10.3 一文の修正で意味が変わっていないかを見る

説明の順序を整えたら、前の文で分かったことから次の文へ進めるかを確かめる。文頭で取り上げた対象が唐突なら、先に紹介するか、前の文で出てきた情報を受ける形へ直す。同じ対象を説明し続ける場合は、その対象を文頭に保ち、後半で新しい情報を加える方法もある。毎回違う話題を文頭に置くよりも、何の説明が続いているかを追いやすくなる。

文の順序や語句を直した後は、判断の主体と主張の強さが変わっていないかを読み比べる。主語を省いて参加者の発言が著者の結論に見えたり、語尾を変えて推論が確認済みの事実に見えたりする場合がある。短くする際も、誰が何を根拠に判断したかと、元の文の慎重さを保つ。

概念名を変えた場合は、原稿のほかの部分でも同じ名称を使っているかを確かめる。対象や条件を削った場合は、結論の範囲が広がっていないかを見る。引用した資料や図表の内容、別の節で述べた説明とも照合し、修正した一文が原稿全体と合っていることを確認する。

引用や先行研究の紹介は、作業用のメモだけで確かめず、原典の該当箇所へ戻る3。直接引用の語句と引用範囲、要約した主張の条件、自分の説明との境界を照合する。著者名、年、題名なども参考文献一覧と確かめ、読者が同じ資料を特定できるようにする。

不足した説明を補ってから、最後に主題と関係の薄い説明や重複、不要な強調を削る4。根拠や成立条件を保ちながら、各文が主張を支えるために必要かを確かめる。

10.4 査読への説明を本文にも反映する

査読で説明不足を指摘されたときは、回答書と本文の両方を直す。「分類の作り方が分からない」という指摘なら、分析単位や比較の手順を本文に追記し、回答書には修正内容と位置を記す5。回答書だけで説明しても、その後の読者が読む本文には同じ疑問が残ってしまう。

指摘に応じて追加分析を行った場合は、何を行い、結果がどう変わったかも報告する。提案を採用しない場合は、研究目的、方法、証拠に照らした理由を示す。各指摘への判断を明らかにし、改稿後の本文から実際に行った研究を確かめられるようにする。


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  1. 草稿から時間を置くことと、複数の修正候補を並べる方法について、福地と園山(2019)、TOPIC 4.3を参照。 ↩

  2. 観点を分けた推敲について、佐渡島ほか(2015)を参照。本章の点検順は、このガイドで整理したものである。 ↩

  3. 引用と先行研究への言及を原典に戻って確認する点検について、小熊(2022)、第11章「提出前のチェックポイント」を参照。 ↩

  4. 不足を補った後の削減について、福地と園山(2019)、TOPIC 4.3を参照。削減量の5%は同書の経験則であり、このガイドでは一律の基準にしていない。 ↩

  5. 改稿と再投稿への対応について、Lahman(2022)、Chapter 6を参照。 ↩