6. 結論が成り立つ範囲を示す

結論では、論文で示した主張を振り返り、その意味と成り立つ範囲を伝える。研究の問いを立てているなら、結論がその問いへの答えになっているかを確かめる。結論だけを読んでも、何を調べて何が分かったかが理解できるようにする1。その要約には対象と条件も残し、限られた場面で得た結果を、すべての対象に当てはまる傾向として伝えていないかを点検する。

6.1 対象と条件を結論に含める

たとえば、「提出期限が近づくと、入手しやすさを優先して文献を選んだと話す学生もいた」という結果を考える。これを「学生は入手しやすい文献を選ぶ」と縮めると、次の三つの情報が消える。

この三つを残すなら、「インタビューでは、期限間近に入手しやすさを優先したと話す学生もいた」と書ける。「学生は」から始めるよりも、誰のどのような経験について述べているかが伝わる。

6.2 順序と因果関係を書き分ける

出来事をつなぐ言葉を変えただけでも、主張は変わる。次の二文では、要旨を読むことと時間が短くなることの関係が異なる。

述べる関係 例
出来事の順序 要旨を読むようになった後に、文献を選ぶ時間が短くなった。
原因と結果 要旨を読むようになったことで、文献を選ぶ時間が短くなった。

後者は、要旨を読むことが時間の短縮を生んだと述べている。繰り返し検索して操作に慣れたなど、別の理由で短くなった可能性もある。原因と判断するには、ほかの説明も検討したうえで、要旨の利用が時間の短縮につながった根拠を示す必要がある2。

原因を説明したのが参加者である場合は、その人の理解として報告する。「要旨を読むおかげで早く選べるようになった」と話したなら、参加者が時間の短縮をどう捉えていたかは分かる。この発言を著者自身の因果的な結論とするには、その説明を採用できる根拠を別に示す必要がある。

結果を示した資料だけで、その結果が生じた理由まで裏づけられるかも点検する3。資料が足りなければ、追加の聞き取りや先行研究との比較を検討する。たとえば検索時間の短縮を説明したいなら、要旨を使ったという報告に加え、検索に慣れた過程などを尋ね、考えられる説明を比べる。追加の検討ができなかった場合は、理由について残った不確かさを示す。

著者が要旨の利用を提案する場合も、提案と効果の確認を区別する。「要旨を使った文献選びを提案する」なら、その根拠となった知見を説明する。「要旨を使えば適切な文献を選べる」と書くなら、有効性を確かめた根拠が必要になる。提案を述べた文が、推敲によって効果を断定する文へ変わっていないかを確かめる。

6.3 異なる事例から結論の条件を考える

「学生は課題との関連を重視して文献を選ぶ」とまとめようとしても、入手しやすさを優先した語りも残ることがある。その場合は、語られた二つの選択場面を比べる。期限までの日数の違いによるのか、ほかの理由によるのかを資料に戻って調べる。

期限が迫る場面では基準が変わると資料から説明できれば、その条件を結論に含める。説明できない違いが残るなら、すべてを同じ傾向にまとめず、どの点が未解明かを記す。異なる事例を残すことで、結論がどの範囲まで成り立つかを具体化できる。

6.4 確認できなかった範囲を具体的に述べる

未解明の点や資料の制約は、研究の限界として報告する。そのときは「質的研究だから」「少人数だから」で終えず、その資料と方法で何を理解でき、何が分からなかったかを書く4。文献選びの理由をインタビューだけで調べた場合なら、次のように記せる。

本研究では、学生がインタビューで説明した文献選びの理由を整理した。検索操作の記録はないため、語られた順序と実際の操作の順序が一致するかは確認できていない。

この研究から分かるのは、学生がインタビューで説明した理由である。実際の操作を観察してはいないため、結論にも「インタビューで説明された理由」という表現を残す。限界の節を読まない人にも、語られた経験と観察された行動の違いが伝わる。

別の対象への適用可能性を述べる場合は、その対象でも同じ条件が成り立つかを検討する。この作例では、期限が迫ったときに入手しやすさを優先した語りが得られた。ほかの情報選択でも同じ判断が起きるかは、今回の資料だけでは確認できない。展望として述べるなら、どの条件を共有すると考えたかと、次に何を調べる必要があるかを示す。

6.5 複数の研究をまとめるときは証拠の出所を保つ

複数の研究から結論を導く場合は、それぞれの研究が何を示したかを先に説明する。ある授業で課題との関連を重視する語りが、別の授業で入手しやすさを優先する語りが得られたとしても、授業の違いが選び方の違いを生んだとは限らない。対象者、質問、調査時期なども異なるなら、比較から考えられる説明と、各研究で直接確かめたことを分けて記す。

比較する成果が同じ資料を使っている場合は、その共有も明示する。一組のインタビュー記録から二つの分析結果を得ても、別々の資料で二度確かめたことにはならない。「同じ資料を選択基準と時間の制約という二つの観点から分析した」と書けば、何を新たに分析し、どの証拠を共有しているかが分かる。

研究をまとめる際は、結果同士を比べたのか、元の資料を分析し直したのかも区別する。二つの研究で報告された選択基準を比べたなら、比較した内容とそこから読み取ったことを書く。インタビュー記録に戻って期限への言及を調べ直したなら、問いを示したうえで、分析手順と結果も報告する。


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  1. 結論だけでも論証の概要が分かる記述と、問いと答えの対応について、石黒(2015)、第7章「結論は独立した要旨にする」を参照。 ↩

  2. 根拠から主張へ進む際の前提と限定について、吉岡(2015)、第16節を参照。 ↩

  3. 結果の理由を解釈するための追加資料や先行研究との比較について、石黒(2015)、第6章「憶測を防ぐ方法」を参照。 ↩

  4. 異なる語り、知見の範囲、未解明の点の伝え方について、Lahman(2022)、Chapter 5を参照。 ↩