7. 主語と文末で判断を書き分ける

「適切な文献を選べた」と書かれていても、それが参加者の感想なのか、資料を調べた著者の判断なのかで意味は変わる。参加者の発言なら「Aは〜と説明した」、著者の解釈なら「本分析では〜と捉える」と書けば、誰の判断かを示せる。文の主語と文末を選ぶことは、判断の出所と確かさを読者に伝えることでもある。

7.1 誰の判断を述べているかを示す

参加者の発言を紹介した後に著者の解釈を書くなら、誰の説明かが切り替わる箇所を示す1。たとえば、次のように書ける。

参加者Aは、要旨を読んだことで課題に使える文献を選べたと説明した。本分析では、この発言から、Aが要旨を課題との関連を確かめるために使ったと読み取る。

一文目はA自身の説明、二文目は著者が発言から読み取ったことである。「参加者Aは」から「本分析では」へ書き出しを変えると、二つを区別できる。先行研究の紹介でも、「文献Aは〜と論じている」と書けば、その文が誰の主張かを示せる。

参加者Aの説明は、要旨を読んだことで課題に使える文献を選べたというもの。下向きの矢印は「発言を解釈する」という関係を表す。著者はこの発言から、Aが要旨を課題との関連を確かめるために使ったと読み取る。参加者の説明と著者の読み取りを、別の枠に分けて示している。
図7-1 参加者の説明と著者の読み取り。

主語と述語だけを取り出すと、判断の主体と、述べている内容が対応するかを点検できる2。「本研究の特徴は、学生へのインタビューを行った」と書いたら、「特徴は、行った」という組み合わせになる。何を述べたいかに合わせて、文の初めか終わりを直す。

述べたいこと 修正前 修正後
実施した作業 本研究の特徴は、学生へのインタビューを行った。 本研究では、学生へのインタビューを行った。
研究の特徴 本研究の特徴は、学生へのインタビューを行った。 本研究の特徴は、学生自身が語る判断理由を分析した点にある。

一行目は作業の報告、二行目は研究への評価であり、述べる内容が異なる。作業の報告を研究の特徴へ変えるなら、何を特徴とするかも補う必要がある。主語と述語の間に長い説明が入っている場合は、その説明を別の文に出す方法もある。理由や条件を分ける際は、どの作業や判断にかかるのかを保つ。

修正前の「特徴は、行った」は主語と述語が対応していない。実施した作業を述べる場合は「本研究では、学生へのインタビューを行った」とする。研究の特徴を述べる場合は「本研究の特徴は、学生自身が語る判断理由を分析した点にある」とする。二つの修正は、述べたい内容に応じた別々の選択肢である。
図7-2 述べたい内容に合わせた主語と述語の修正。

判断の主体を点検する際には、評価を含む言葉にも目を向ける。「学生は題名だけで選んでしまう」の「しまう」には、その選び方を望ましくないと捉える評価がある。学生自身が問題だと語ったなら、その発言として示す。著者の評価なら、なぜ問題と判断したかを説明する3。

7.2 自分をどこまで出すか

著者自身を示す際には、「私」「私たち」と書く方法もあれば、「本研究では」と書く方法もある。Lahman(2022)は一人称の使用を勧める立場を示しているが、分野、方法論、投稿先によって慣行は異なる4。同じ立場や方法を採る掲載論文も確認して、その原稿での表し方を決める。

ただし、「私が分析した」と書くだけでは、研究者の経験が分析にどう関わったかまでは伝わらない。たとえば、調査した職場で働いた経験を資料の解釈に使ったなら、その経験がどの読み取りに関わったかを説明する。この説明は「筆頭著者は」と書き始めてもできる。自分をどう呼ぶかと、研究への関わりをどこまで説明するかは、分けて検討する。

7.3 主張の強さと文体に合う語尾を選ぶ

誰の判断かを示したら、どの程度の確かさで述べるかに合わせて語尾を選ぶ。「示唆する」を「明らかになった」に変えると、考えられる意味を述べた文が、確認済みの事実を述べる文として読まれやすくなる。同じ語尾の繰り返しを避けたい場合も、その変更によって主張の強さを変えないようにする。

述べること 文末の例
参加者の発言 「〜と説明した」「〜と語った」
調べた範囲で確認した結果 「〜が見られた」「〜を確認した」
著者の読み取りや推論 「〜と解釈する」「〜と考えられる」
用語の定義 「〜と呼ぶ」「〜と定義する」
証拠から導く可能性 「〜を示唆する」「〜可能性がある」
調べた範囲の限界 「〜までは確認できない」

動詞の形は、いつのことを述べているかにも合わせる5。実施済みの調査は「行った」、本文で示している定義は「定義する」と書けば、作業の報告と現在の説明を区別できる。先行研究の内容は「文献Aは〜と論じている」と紹介できるが、研究の経緯を年代順に述べるなら「論じた」が合う場合もある。

文の役割 例
実施した調査の報告 本研究では、学生6人にインタビューを行った。
本文で用いる定義 本稿では、課題との関連を確かめるための読みを「選択のための読み」と呼ぶ。
発言に基づく現在の推論 Aの発言から、要旨を課題との関連を確かめるために使ったと考えられる。

三行目では、Aの過去の行為を「使った」、その行為に対する著者の現在の判断を「考えられる」で表している。過去の調査について書く節にも、現在の説明や推論は入る。時制をそろえる際は、節全体を機械的に過去形にせず、各文の役割を確かめる。

確認できたことは、調べた範囲を示して述べられる。たとえば、実際に発言を数えたなら、「6人中4人が要旨の利用に言及した」と書ける。その数値から文献選びへの効果を論じるには、人数とは別の根拠が要る。「要旨が文献選びを改善したと考えられる」と続けるなら、何をもって改善と判断したかを説明する。「と考えられる」という語尾だけでは、その根拠を補えない6。

根拠がある場合も、別の解釈の余地を残すために慎重な語尾を選ぶことはある。「可能性があると考えられる」が長く感じられても、すぐに「可能性がある」へ縮めず、「と考えられる」が著者の判断を示すために必要かを確かめる。前後の文ですでに伝わっていれば省けるが、修正によって主張の強さや語調が変わるなら残す。

7.4 主語の省略と態で話題をつなぐ

同じ人の作業を続けて述べるなら、主語を文ごとに繰り返さなくても伝わる。「筆頭著者は逐語録を読み、文献選びの理由を分類した。その後、分類の重なりを確かめた」では、後半も筆頭著者の作業として読める。実際には別の著者が点検したなら、その切り替わりを示す7。

修正前 修正後
筆頭著者は逐語録を読み、文献選びの理由を分類した。その後、分類の重なりを確かめた。 筆頭著者は逐語録を読み、文献選びの理由を分類した。その後、第二著者が分類の重なりを確かめた。

主語を補うかどうかは、読み手が行為者を追えるかで決める。特に、参加者の発言から著者の解釈へ移る箇所や、先行研究の紹介から今回の分析へ移る箇所では、省略によって誰の判断かが曖昧になりやすい。「本分析では」と書き始めれば、その後の解釈を今回の分析に位置づけられる。

作業順を示す下向きの矢印に沿って、逐語録を読む、文献選びの理由を分類する、分類の重なりを確かめる、という三つの作業が並ぶ。最初の二つを行う主体は筆頭著者で、最後の点検を行う主体は第二著者である。点検に移るときに、行為者が切り替わる。
図7-3 作業の順序と行為者の切り替わり。矢印は作業順を示す。

能動態と受動態は、何を話題として続けるかに合わせて選ぶ。「筆頭著者は分類を修正した」では著者を、「分類は筆頭著者によって修正された」では分類を文の中心に置いている7。著者の作業を説明し続けるなら前者が、分類の変更を説明しているなら後者がつながりやすい。受動態でも、修正した人の区別が必要なら「筆頭著者によって」のように示す。主語を省く場合も態を変える場合も、文の話題と行為者をそれぞれ確かめる。


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  1. 主語と述語、引用主体の対応について、滝浦編著(2022)、第10〜11章を参照。表の文末は、その考え方をもとに整理した例である。 ↩

  2. 主語と述語を取り出して対応を調べる方法について、福地と園山(2019)、TOPIC 3.11を参照。本文の例は、このガイドで作成した。 ↩

  3. 暗黙の評価と根拠の点検について、吉岡(2015)、第16節を参照。参加者の引用中の表現は、原文を保つ。 ↩

  4. 一人称を勧める立場の例として、Lahman(2022)、Chapter 3、読者と投稿先に合わせた表現について同書Chapter 5を参照。研究の立場と条件に即した報告については、レヴィット(2023)、第3章を参照。 ↩

  5. 文の役割に合わせた動詞と時制について、石黒(2015)、第12章第7課を参照。表の例は、このガイドで作成した。 ↩

  6. 根拠の提示と文末表現の使い分けについて、石黒(2015)、第12章第8課を参照。一人称を抑える同書の助言は、研究者の関与を説明する必要があるかに照らして検討する。 ↩

  7. 主語の省略と態による視点の整理について、テクニカルコミュニケーター協会編著(第2版)、pp. 60, 68を参照。操作説明を扱う同書の助言を、話題と行為者を追えるかという点検に用い、本文の例はこのガイドで作成した。 ↩ ↩2