4. 文献の引用を自分の議論につなげる
文献を読んで内容を要約したら、その要約を自分の論文のどこで使うかを考える。主張の根拠として使うのか、別の見解と比べるために使うのかによって、紹介する内容も変わる。引用する理由を本文に示すことで、読者は文献の紹介が著者の議論へどうつながるかを追える。
4.1 文献を紹介する理由を書く
文献を紹介する準備として、自分の議論に使う知見や提案を短く記録する1。「学生の文献選びを調べた」は研究対象の説明であり、分かった内容はまだ示していない。結果や提案を自分の言葉でまとめると、比べる内容を定めやすくなる。複数の結果や手法を扱う文献なら、必要な項目を分けて記録する。引用に使う前には、それらを支えた資料、方法、条件を原文で確認する。
たとえば、学生の文献選びを扱う二つの研究を紹介したいとする。一方は候補を見つける過程を、もう一方は読む文献を選ぶ過程を説明している。この二つを紹介するなら、どちらも文献選びを扱うという共通点に加え、説明している過程の違いを示す。
文献選びでは、候補を集める判断と読むものを絞る判断を区別できる。文献Aは、題名が候補を集める手がかりになると報告した。文献Bは、要旨が課題との関連を判断する材料になると報告した。本論文では、候補から読むものを絞る判断に注目し、学生が課題との関連をどう確かめているかを検討する。
この紹介では、Aが扱う「候補を集めること」と、Bが扱う「読むものを絞ること」を区別し、自分が調べるのは後者だと示している。ただし、Aも読むものを絞る過程を扱っているなら、この分け方ではAの内容を正しく伝えられない。文献を整理するために使った言葉が、各文献の説明に合うかを原文で確かめる。佐渡島と吉野(2021)も、この点を重視している2。
紹介する文献には、対象が似た研究に加え、方法や理論的な考え方を引き継ぐ研究も含まれる3。何を「文献を選んだ場面」と数えるかを先行研究の考え方から決めたなら、その考え方と採用した理由を示す。何を引き継ぎ、どこを変えるかを書くことで、自分の研究がどの議論に貢献するかも説明できる。
4.2 原著の説明と自分の解釈を切り替える
先ほどの作例で、題名と要旨について報告したのは文献AとBの著者である。一方、候補を集める判断と読むものを絞る判断を区別し、論点を定めたのは今回の論文の著者である。「文献Aは〜と報告した」から「本論文では〜に注目する」へ主語と述語を変えることで、原著の報告から自分の判断に移ったことを示せる4。
原著を評価する場合も、自分が何を根拠に判断したかを記す。「Aの説明には限界がある」とだけ書くと、読者は何が足りないのかを判断できない。候補を見つける過程までは説明されているが、その後の選択は扱われていないなら、説明されている範囲と今回調べたい範囲の違いを示す。
原著の主張を別の対象や条件へ広げて使う場合は、その拡張を自分の判断として示す5。元の主張が確かでも、広げた主張まで同じ出典だけで支えられるとは限らない。どの点を共有でき、何を今回の資料で確かめる必要があるかを説明する。
4.3 主張ごとに出典を対応させる
AとBの報告を本文に書く際には、どの説明をどちらの文献が支えるかが分かる位置に出典を置く。「題名と要旨が判断材料になる」と一文にまとめ、文末にAとBを並べると、両文献がどちらの情報も扱ったように読まれる場合がある。題名についての説明にAを、要旨についての説明にBを対応させれば、読者は確かめたい主張から原著へ戻れる。
原著を読むときは、何が分かったかとともに、誰をどのような条件で調べたかも確認する。特定の授業の学生を調べた研究を「大学生は〜する」と要約すると、調べていない学生にも当てはまるように読める。同じ授業の学生を扱う文献を複数引用しても、ほかの授業の学生まで確かめたことにはならない。複数の研究をまとめる際も、それぞれの対象と条件を残す。
4.4 引用と要約の境界を保つ
原著の内容を本文へ取り入れる方法には、表現をそのまま示す直接引用と、自分の言葉でまとめる要約がある。直接引用では、原著の言葉を用いた範囲と出典の該当箇所を明確にする。要約にも出典を添え、原著の条件や主張の強さを保つ。読者が原著の表現と著者によるまとめを見分けられるように書く。
出典として挙げる資料は、実際に確認したものにする。別の文献を通して知った原著を直接読んだように記すと、紹介した解釈を誰が行ったかが曖昧になる。原著を確認するか、実際に読んだ資料を明示し、読者が同じ資料へたどれるようにする。
4.5 新しさを既存の説明との差として示す
文献を比較して、まだ説明されていない点が見つかったら、自分の研究がそこに何を加えるかを書く。文献選びの例なら、文献Bが報告したこと、自分の資料から分かったこと、その違いから言えることを順に示せる。
文献Bは、学生が要旨を使って課題との関連を判断すると報告した。本研究では、提出期限が近い場面では入手しやすさを優先したという語りも得られた。この選択を説明するには、課題との関連に加えて、期限内に文献を入手できるかも考慮する必要がある。
「異なる結果が得られた」で終えず、文献Bの説明に何を加えると今回の語りを理解できるかまで述べている。これが、この作例で示せる貢献である。
ただし、期限や入手可能性を扱う研究がほかにあれば、その説明とも比べる必要がある。自分が見つけた文献に書かれていないことを、そのまま「研究されていない」とは言えない。検索した範囲を確かめ、近い問いを扱う文献も検討したうえで、既存の説明に何を補足できるかを述べる。
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文献の主張を自分の言葉で記録する読解について、阿部(2024)、第6章3〜4節を参照。本ガイドでは、紹介する知見や提案を整理するためにこの方法を用い、複数の内容を一つの主張へ圧縮する規則にはしていない。 ↩
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複数文献をまとめる言葉と原文の対応について、佐渡島と吉野(2021)、第11章を参照。 ↩
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対象に加えて方法論や理論的な考え方から先行研究を検討することについて、小熊(2022)、第6章「先行研究との関係」「『先行研究の検討』は自分を見直す機会でもある」を参照。 ↩
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引用主体と根拠の示し方について、滝浦編著(2022)、第10〜11章を参照。 ↩
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要約と主張の拡張の区別、および拡張した主張を支える責任について、福地と園山(2019)、TOPIC 4.6「引用の仕方」を参照。 ↩