7. 研究計画書にまとめる

研究を考えてきた順序が、そのまま読みやすい説明順になるとは限らない。方法を先に思いついた研究でも、読者には、その方法で何に答えるのかを理解してもらう必要がある。Two-Pagerに書いた目的、RQ、方法を、読者が筋道を追える順に並べる。

そこへ、先行研究を踏まえた導入、研究の質を確かめる対策、倫理、実行可能性の検討を加える。章立ては提出先の指定に従い、指定がなければ次の構成を基本にする。短い計画書では複数の項目をまとめ、長い計画書では小見出しに分ける。

7.1 計画書に含める内容

  1. 仮タイトル:対象と中心概念が分かるタイトルを付ける。必要に応じて、方法や文脈も含める。
  2. 要旨:問題、目的/RQ、方法、期待する貢献を短くまとめる。
  3. 背景と問題設定:問題の重要性、すでに分かっていること、未解決の点、研究が必要な理由を説明する。
  4. 先行研究レビュー:個々の文献を並べるだけでなく、研究同士の関係が分かるようにまとめる。理論、知見の一致や対立、先行研究の不足や前提を示し、そのなかに自分の研究を位置づける。
  5. 研究目的、研究質問、必要に応じて仮説:それぞれの関係が分かる順序で示す。
  6. 理論や概念の枠組み(必要な場合):研究の土台とする理論や概念、それらの関係を示す。RQや方法の選択に、どう関わるかも説明する。
  7. 研究方法:研究アプローチ、対象、資料やデータ、収集方法、分析方法を説明する。
  8. 研究の質:研究アプローチに応じて、妥当性、信頼性、信用性などを脅かす問題と、その対策を示す。
  9. 倫理とデータ管理:所属機関の倫理審査の様式と手引きを確認し、求められている項目に沿って書く。
  10. 研究の意義、期待する貢献、成果の届け先、限界:誰の理解や判断がどう変わるのかを説明する。成果をどのような形で届けるのか、どこまで主張できるのかも示す。
  11. 工程、資源、予算、リスク:計画を実行できることを、具体的な根拠とともに示す。
  12. 参考文献と付録:参考文献をまとめ、必要に応じて質問票、面接ガイド、募集文、同意文書、分析計画などを付ける。

7.2 読者が筋道を追える文章にする

研究計画書は、口頭で補足しなくても、専門外の審査者が研究課題、意義、RQ、方法、実行可能性、限界を判断できるように書く。Punchは、このような計画書を自立した文書と呼んでいる(Punch, 2016, 第2章)。1

判断の根拠を示す

問いの意義や方法を選んだ理由を、文献や予備調査などの証拠で支える。別の説明や、判断が成り立つ条件も検討する(Booth et al., 2016, 第7〜11章; Turabian, 2018, 第5章)。すでに得ている証拠と、これから集めるデータは区別し、後者はどの分析を通じてRQへの答えになるかを説明する。

一段落で一つの主題を扱う

段落の冒頭で要点を述べ、それを支える説明、根拠、具体例を続ける。引用した文献やデータが、要点をどう支えるかも説明する。隣り合う文や段落の主要な語や概念をたどり、話題がつながっているかを確かめる(Creswell & Creswell, 2018, 第4章)。前の説明を受けて新しい情報を加え、主題が変わったら段落を分ける。

用語と定義をそろえる

目的、RQ、方法、分析を通じて、同じ概念には同じ用語を使う。主要な概念は、この研究で何を指すかを説明する。観察や測定に使う場合は、概念の意味を示す概念的定義と、どう観察、測定するかを示す操作的定義を分けて書く。略語は初めて使う箇所で定義する。

全体の構成から推敲する

まず全体を書き、見出しの順序、段落の役割、文の表現の順に見直す。必要な条件や根拠を残しながら重複を削り、表記、引用、参考文献をそろえる。最後に、事前の説明なしで読んでもらい、何をどう調べる研究だと理解したかを確かめる。意図と違う説明が返ってきたら、そう読めた箇所を確認して直す。

7.3 短い研究計画書の記入例

意思決定の例を、一つの計画書としてまとめると次のようになる。第4章の導入の下書きを背景に、第5章のTwo-Pagerを目的、RQ、方法に使い、第6章の検討を質、倫理、工程に加えている。短い計画書を想定して、背景と文献レビュー、方法と研究の質、意義と限界をそれぞれまとめた。

以下の文献は実在するが、A社の状況と実施条件は記入例のための架空の設定である。文献の比較は第3章と同じ2本に絞っている。

仮タイトル

リモート環境のソフトウェア開発チームにおける仕様変更の意思決定:情報の共有と判断権限に着目したケーススタディ

要旨

本研究は、リモート環境のソフトウェア開発チームで、仕様変更の意思決定が進み、または滞るプロセスを調べる。A社の1チームを対象に、10件程度の案件の業務記録と、6人程度へのインタビューを用いる。提案から採否の決定までを時系列に整理し、各段階で使われる情報と判断権限、進行や停滞に関わる条件を比較する。得られた知見を、知識の共有、承認の手順、不在時の対応を考える材料とする。

背景と研究課題

ソフトウェア開発では、仕様変更の採否を決めるために、技術上の見通しや業務上の要望を持ち寄る必要がある。相談が特定の人に集まる場合、その人の知識を必要としているのか、権限に基づく判断を必要としているのかによって、停滞への対応は異なる。

HerbslebとMockus(2003)は、複数拠点での変更作業に関わる人数と、完了までの時間との関連を示した。Moeら(2012)は、アジャイル開発で共同の意思決定を行う際に、戦略、戦術、日々の業務の各水準の決定を整合させる課題を論じている。前者は作業を担う人の間の調整、後者は異なる水準の決定の関係に着目する手がかりとなる。

本研究では、これらの視点を仕様変更の採否を決める場面に適用する。記録上、回答を待っているという同じ状況でも、情報が足りない場合、承認が必要な場合、別の案件が優先されている場合などが考えられる。個々のやり取りを追ってこれらを区別し、情報の共有と判断権限が意思決定の進行にどう関わるかを検討する。

研究目的とRQ

本研究の目的は、リモート環境のソフトウェア開発チームにおける仕様変更の意思決定の進め方および滞りのプロセスを、情報の共有と判断権限に着目して明らかにすることである。

  1. 仕様変更の提案から採否の決定までに、どのようなやり取りが行われるのか
  2. 各段階で誰がどの情報や判断権限を使って関わっているのか
  3. どのような状況で意思決定が進み、または滞るのか

研究方法と研究の質

個々のやり取りを業務の文脈とともに追うため、質的ケーススタディを行う。遠隔で日常の業務を行うA社の8人のチームを対象候補とする。事前相談で、課題管理システム、チャット、会議メモに提案と決定の記録が残ることを確認している。記録の提供許可と個人の同意は今後得る。

直近3か月に提案された仕様変更のうち、採用、却下、保留や未決の案件を含む10件程度を選ぶ。相談相手や判断に至る経過の違いを比較できるように選び、選択と除外の理由を残す。

インタビューは、提案者、相談を受ける人、採否の判断に関わる人など6人程度に、1人60分程度行う。案件の記録を見ながら、判断に必要だった情報、それを持っていた人、採否を決められる人、待っていたものを尋ねる。チーム外の関与者も調べる必要があれば、許可と同意の範囲を見直す。

分析は次の手順で進める。

  1. 時系列の整理(RQ1):案件ごとに、提案から採否の決定までのやり取りを並べる。未決の案件は調査時点までを追い、記録の空白は空白として残す。
  2. 関与の整理(RQ2):「情報の依頼」「説明」「承認の依頼」「決定」などのラベルを付け、誰がどの情報や権限を使って関与したかを整理する。ラベルはデータに合わせて追加、修正する。
  3. 案件間の比較(RQ3):回答や承認を待つ場面と、その後に進んだ場面を比べる。情報不足、権限、優先順位、作業負荷などがどう関わったかを検討する。時間の長さだけで停滞と決めず、何が待たれていたかを確かめる。
  4. 答えの統合:三つの答えを合わせ、意思決定の流れと、進行や停滞に関わる条件を説明する。

インタビューの回想と当時の記録を照合し、食い違いを残す。特定の人の不在が停滞に関わるという解釈が出た場合も、不在でも進んだ案件と比べて説明を見直す。解釈に対応する記録や発言を保ち、別の読み方ができないかを指導教員と検討する。参加者には、出来事の順序や意味の取り違えがないかを確認する。

倫理とデータ管理

必要な倫理審査の承認と組織の許可を得てから募集し、個人ごとに同意を得る。参加は任意であり、参加の可否や回答を人事評価に使わないことを協力先と取り決める。同意のない人の発言や顧客情報は提供前に除き、そのために経過を追えない案件は対象から外す。

記録、録音、文字起こしは大学が認める暗号化された保存先で管理し、閲覧者を研究者と指導教員に限る。氏名の対応表は分析用データと別に保管する。

データは研究終了後5年で廃棄し、インタビュー後1か月以内は本人のデータの削除に応じる。この期間と削除の範囲は、審査で確認し、同意を得る前に説明する。

報告では仮名を用い、役職や案件の内容から本人が分かるおそれも点検する。協力先には結果の概要を返し、個人別の回答や生の記録は渡さない。

研究の意義と限界

情報の共有と判断権限を合わせて検討し、分散的な協働で意思決定が進む条件を具体的な過程として示す。実践面では、知識の共有、承認の手順、不在時の対応のうち、何を検討すべきかを考える材料にする。特定の人への集中が専門知識や責任の配置上必要だった場合も、その条件を説明する。

一つのチームで得た知見であり、記録や記憶から復元できないやり取りも残る。対象チームの業務や役割分担とともに結果を示し、他社でも同じことが起きる頻度や、リモート勤務の因果効果は主張しない。

工程と資源

修士論文の初稿まで8か月、週10時間程度を確保する。1か月目に文献調査、協力先との条件調整、倫理審査の申請を行い、2か月目に質的分析とデータ管理の研修を受ける。承認、許可、同意がそろった後、1案件で記録の整理を試す。3〜4か月目に収集と案件ごとの分析、5〜6か月目に案件間の比較、7〜8か月目に執筆と改稿を行う。

インタビュー約6時間分の文字起こしと照合に約24時間を仮に割り当て、分析時間は別に確保する。最初の1案件で所要時間を測り、件数を見直す。

機器と保存環境は大学のものを使い、面接はオンラインで行う。勤務時間中の協力について事前に確認し、謝礼なしで募集するため、旅費、機器購入費、謝礼は計上しない。

2か月目の終わりまでに必要な承認、許可、同意がそろわなければ、収集を延期し、件数と工程を指導教員と組み直す。業務記録を利用できずインタビューだけになる場合は、参加者が意思決定をどう経験したかを調べる計画へ、目的とRQも含めて見直す。

参考文献

記入例で引用した文献の書誌情報は、Referencesにまとめている。


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  1. 原語は stand-alone document。