6. 研究の質と実施条件を確かめる
第5章で考えた方法を、研究の質と限界、実行可能性、倫理とデータ管理の三つから確かめる。
6.1 研究の質と限界
研究計画書には、RQへの答えを支えるための対策と、それでも残る限界を書く。第5章のTwo-Pagerをもとに、測定や解釈にどのような問題が起こりそうかを考える。
量的研究
測定が安定しているかという信頼性と、測りたい概念を捉え、予定した結論を支えられるかという妥当性を確かめる。既存の尺度を使う場合も、対象や言語が自分の研究に合うかを確認する。因果関係を述べるなら、別の原因では説明できないかも検討する(Bryman & Bell, 2011, 第2・6章; Creswell & Creswell, 2018, 第8章)。
質的研究
解釈を支えるデータと分析過程を示し、研究者自身の立場や思い込みの影響も検討する。こうした質を信用性(trustworthiness)と呼ぶことがある。記録とインタビューの照合、解釈に合わない事例の検討など、想定する問題に合う対策を選ぶ(Bryman & Bell, 2011, 第16章; Creswell & Creswell, 2018, 第9章)。
混合研究
量的部分と質的部分の質に加え、二つの結果をどう結びつけるかを検討する。結果が食い違った場合も、その理由を確かめる(Creswell & Creswell, 2018, 第10章)。
アートベース研究と地域参加型研究
アートベース研究では、研究面と芸術面の両方から、媒体と研究目的の適合、制作と解釈の過程、表現の仕方を検討する。地域参加型研究では、質を判断する基準を共同研究者と決め、意思決定の共有、解釈の確認、成果の返し方を考える(Leavy, 2017, 第7〜8章)。
残る限界と主張できる範囲を書く
対策を講じても残る限界は、結論への影響まで示す。たとえば、一つのチームを詳しく調べれば、そのチームで起きた過程は説明できても、他社でも同じことが起きる頻度までは分からない。
計画書には「起こりそうな問題」「その対策」「残る限界」「主張できる範囲」をつなげて書く。第5章の意思決定の例なら、次のように整理できる。
- 起こりそうな問題:記録に発言がない人を、意思決定に関与していないと判断してしまう。
- その対策:個別の相談や記録外の判断をインタビューで確かめ、記録と回想を区別して時系列に残す。
- 残る限界:記録にも記憶にも残らないやり取りは復元できない。
- 主張できる範囲:確認できたやり取りをもとに意思決定の過程を説明する。記録や証言がないことだけで、関与がなかったとは断定しない。
6.2 実行可能性
研究を最後まで進めるには、必要な資料やデータを得られ、調査や分析を行い、期限までにまとめられる見通しが必要になる。これが研究の実行可能性である。使える時間、技能、費用などに照らして、計画の規模を考える(Punch, 2016, 第2・7章; Saunders, Lewis & Thornhill, 2007, 第2章; Leavy, 2017, 第3章)。
先行研究の方法を参考にする
自分の研究に近い論文を読み、どのような対象や資料を扱い、どうデータを集め、分析したかを確かめる。その方法を自分が使う場合に、対象や資料にアクセスできるか、何を学ぶ必要があるかを考える。
論文に書かれていない所要時間や手続きは、指導教員や研究経験のある人に相談して見通しを立てる。
文献調査から執筆までの予定を立てる
文献調査、方法の学習、必要な倫理審査や許可、資料やデータの収集、分析、執筆に、おおよその時期を割り当てる。文献は最初に読むだけでなく、分析や執筆の途中でも必要に応じて読み直す。
提出までに終えるのが難しそうなら、扱う対象や範囲を見直す。計画書には、研究の大まかな予定と、実施に向けて確認が必要な点を示す(Saunders, Lewis & Thornhill, 2007, 第2章; Bryman & Bell, 2011, 第3章)。
6.3 倫理とデータ管理
研究倫理では、研究に関わる人の意思を尊重し、負担や不利益を抑える。計画書には、自分の研究でどのような配慮が必要か、その方針を書く。具体的な手続きは、所属機関の倫理審査の様式と手引きに沿って整える。
参加者の意思を尊重し、不利益を抑える
参加者が研究の目的や協力する内容を理解し、自分の意思で参加を選べるようにする。組織の許可と本人の同意は別であり、参加を断ることや途中でやめることで不利益が生じないようにする。
協力に伴う時間や心理的な負担も考える。参加を断りにくい関係や、発言の公表で本人に不利益が及ぶ可能性があれば、募集や調査、報告の仕方を見直す(Leavy, 2017, 第2章; Bryman & Bell, 2011, 第5章; Creswell & Creswell, 2018, 第4章)。
プライバシーを守り、データを適切に扱う
氏名を番号や仮名に置き換える仮名化だけでは、役職や発言の内容から本人が分かることがある。匿名化では、こうした情報の組み合わせも考慮して、個人が識別される可能性を十分に小さくする(UK Data Service「Anonymisation core concepts」)。1
データは、同意や許可を得た目的と範囲で扱う。誰が利用できるか、どのように保管し、いつ廃棄するかについて、所属機関の規程に沿って管理の方針を決める(Leavy, 2017, 第2章; Saunders, Lewis & Thornhill, 2007, 第6章)。
研究中も配慮を見直す
倫理上の配慮は、審査の承認後も続く。研究中の判断を考えるうえで、次の二つの概念が手がかりになる(Leavy, 2017, 第2章)。
- 状況的倫理:現場で生じる予想外の出来事や葛藤に対し、その状況に応じて対応を判断すること。
- 関係的倫理:研究者と参加者の関係に目を向け、互いの尊厳や信頼を大切にしながら、研究が参加者に及ぼす影響を考えること。
参加者との関係や研究の進め方が変わったら、新たな負担や不利益が生じないかを見直す。判断に迷う場合は、指導教員や所属機関の窓口に相談する。
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ここでの「仮名化」と「匿名化」は、データの処理方法を説明するための用語である。 ↩