2. 研究課題、目的、RQの仮案を作る
第1章で作った5つのメモと、提出条件などのメモを用意し、研究計画書の要素となるテンプレートに当てはめる。研究課題や目的を考えることと文献調査のどちらを先にするかは、研究によって異なる。このガイドではメモから仮案を作り、次章で文献に照らして見直す。
2.1 「何を」「なぜ」「何のために」をテンプレートに当てはめる
次の4項目は、第1章のメモを整理するために、本ガイドで用意した記入欄である。研究課題を受けて研究目的を定め、それを具体的なRQへ絞るという関係は、Creswellらの説明に基づく(Creswell & Creswell, 2018, 第6〜7章)。考えるときは、書ける項目から始め、相互のつながりを確かめながら見直してよい。
| テンプレートの項目 | 第1章のメモから当てはめる内容 |
|---|---|
| 研究課題(仮) | 「なぜ」に書いた、研究を必要とする問題や状況。現場での困りごと、説明の不足、知見どうしの食い違いなど |
| 研究目的(仮) | 「何を」をもとに、今回扱う対象の範囲と明らかにする側面を「本研究の目的は〜ことである」の形で書いたもの |
| RQ(仮) | 「何を」を具体化した、目的に向けて資料やデータで答える問い |
| 意義(仮) | 「何のために」に書いた、答えが分かると誰の理解や判断がどう変わりうるか |
第1章のリモートワークのメモを当てはめ、資料やデータで答える問いへ具体化すると、次のようになる。
研究課題(仮):チームの意思決定が特定のメンバーに依存し、その人が不在だと判断が滞る場合がある。
研究目的(仮):本研究の目的は、リモート環境のソフトウェア開発チームにおける意思決定のプロセスを明らかにすることである。
RQ1(仮) :提案から決定に至るまでに、どのようなやり取りが行われるのか
RQ2(仮) :意思決定の各段階に、誰がどのように関わっているのか
RQ3(仮) :どのような状況で意思決定が進み、または滞るのか
意義(仮) :分散的な協働の理解を深め、チーム設計の判断材料につながる可能性がある
2.2 「なぜ」から研究課題の仮案を作る
第1章の「なぜ」のメモをもとに、研究を必要とする問題や状況を研究課題(research problem)として示す。現場で対処が必要なこと、既存の説明では理解できないこと、知見どうしの食い違いなどが出発点になる(Creswell & Creswell, 2018, 第5章)。
意思決定の例では、メモに書いた「同じ人に相談することが多い」「その人がいないと話が進まない」という気づきを、特定のメンバーへの依存と不在時の停滞という課題として整理した。この課題について何を明らかにするかは、次の研究目的で定める。
2.3 「何を」から研究目的の仮案を作る
研究課題を受けて、第1章の「何を」のメモから、今回扱う対象の範囲と明らかにする側面を定める。これが研究目的であり、それを文章で示したものを目的文(purpose statement)と呼ぶ(Creswell & Creswell, 2018, 第6章)。
目的文は、次の文型に当てはめるとよい。
本研究の目的は、[対象と文脈]における[現象]の
[この研究で明らかにしたい側面]を明らかにすることである。
2.4 RQの仮案を作る
Creswellらは、目的文で示した全体的な意図を、資料やデータで答える具体的なRQへ絞り込むと説明している(Creswell & Creswell, 2018, 第6〜7章)。
問いだけでなく、答えに必要なデータも考えておく。Punchも、具体的なRQを検討する際に「答えるために必要なデータが明確か」を確かめるよう勧めている(Punch, 2016, 第4章)。
2.1の例では、意思決定のプロセスを調べるために、3つのRQを置いた。それぞれに答えるための資料やデータを考えると、次のように整理できる。
| RQ | 確かめたいこと | 資料やデータの候補 |
|---|---|---|
| RQ1:決定に至る流れ | 提案がどのように検討、修正され、決定に至るか | 会議やチャットの記録、提案書や決定記録の更新履歴 |
| RQ2:各段階への関与 | 誰が提案し、情報や意見を出し、最終的な判断に関わるか | 発言者が分かる会議やチャットの記録、関係者へのインタビュー |
| RQ3:進行と停滞に関わる条件 | 情報の入手状況や関係者の参加、不在時の対応が、進行や停滞にどう関わるか | 複数の案件の進行を時系列に追う記録、参加状況の記録、関係者へのインタビュー |
この3つの答えを合わせ、意思決定がどのように進み、どのような状況で滞るのかを説明する。
メインRQとサブRQを置く場合
研究全体を導くメインRQと、それを具体化するサブRQに分ける構成もある。この構成では、具体的な問いへの答えを統合して、一般的な問いに答える(Punch, 2016, 第4章)。
先ほどの例なら、研究目的を問いの形で表した「リモート環境のソフトウェア開発チームでは、意思決定はどのようなプロセスで行われるのか」をメインRQとし、RQ1〜3をサブRQとして位置づけられる。サブRQにそれぞれ答えた後に、その答えを統合してメインRQに答えることになる。
RQはいくつにするか
この例では3つのRQを置いたが、3つであること自体に意味があるわけではない。実際の数は、問いの範囲と相互の関係、使える期間やデータから決める。Creswellらは、質的研究について、中心となるRQを1〜2個、追加するサブRQを多くても5〜7個とする目安を示している(Creswell & Creswell, 2018, 第7章)。
研究目標を求められた場合
提出先が研究目標(research objectives)を求める場合は、何を特定、比較、説明するのかを具体的な到達点として示す必要がある。Saundersらは、RQをもとに、具体的な研究目標を立てる書き方を示している(Saunders, Lewis & Thornhill, 2007, 第2章)。
2.5 「何のために」から意義の仮案を作る
第1章の「何のために」のメモをもとに、答えが分かると誰の理解や判断がどう変わりうるかを、研究の意義として示す。
意思決定の例では、メモに書いた「分散的な協働の理解を深め、チーム設計を考える材料にするために」を、研究目的やRQに照らして具体化する。意思決定のプロセスが分かれば、分散的な協働の説明を見直す材料や、チームでの情報共有、役割分担、不在時の対応を考える際の参考になる可能性がある。
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