2. 必要条件と十分条件を使い分ける

資料を確認するとき、必要な項目がすべて載っていても、数値が間違っていれば修正が必要になる。「項目がそろっている」という条件だけでは、合格とは判断できない。「欠かせない条件」と「それだけで足りる条件」の違いを、この例から考える。

2.1 合格に必要な条件と、合格と判断できる条件

資料の内容確認を例に、合格の基準を次の二つに限定する。説明のための設定であり、納期や体裁は判定に含めない。

項目が一つでも欠けていれば、この資料は合格にならない。合格するには、項目がそろっていることが欠かせない。このように、ある結論が成り立つために欠かせない条件を、その結論の必要条件という。

ただし、項目がそろっていても、数値が正しいかどうかは分からない。項目の記載は必要条件だが、それだけでは合格と判断するのに足りない。

これに対して、項目がすべて記載され、数値もすべて正しいと確認できれば、この例の合格基準を満たす。このように、満たしていれば結論を導ける条件を、その結論の十分条件という。この例では、二つの条件を合わせたものが合格の十分条件になる1。

必要条件を調べるときは「これが欠けていても、合格になるか」と問い、十分条件を調べるときは「これを満たしていても、不合格になる場合が残るか」と問う。何の合格を判定しているかによって条件は変わるため、最初に判定の基準をそろえる。

2.2 分かっていることから、どこまで結論を出せるか

先ほどの基準を使うと、資料について分かっていることによって、出せる結論が変わる。

分かっていること 出せる結論 その理由
この資料は合格している。 必要項目はすべて記載されている。 項目が欠けていれば、合格の基準を満たせない。
必要項目に欠けがある。 この資料は不合格である。 合格に欠かせない条件を満たしていない。
必要項目はすべて記載されている。 合格かどうかは、まだ決まらない。 数値が間違っているかもしれない。
この資料は不合格である。 項目に欠けがあるかどうかは、まだ決まらない。 項目はそろっていて、数値だけが間違っているかもしれない。

「合格なら、必要項目はそろっている」は成り立つ。しかし、向きを逆にした「必要項目がそろっていれば、合格である」は成り立たない。二つの文の順序を入れ替えると、別の判断になる。

この表の最初の二つは、合格基準と分かっていることを認めれば、結論が必ず導ける推論である。このような推論を演繹という2。実際の資料にこの推論を使うときは、「合格した」という記録自体が正しいかも確かめる。

2.3 必要な状態と、その実現方法を分ける

仕事では、満たしたい条件と、その条件を満たすための方法を混同することがある。たとえば、「正しい資料を提出するために、レビューを1回増やす必要がある」という提案を考える。項目がそろい、数値が正しいという状態を、追加のレビュー以外でも実現できるなら、レビューを増やすこと自体は必要条件ではない。

そこで、「何を確認できればよいのか」「ほかの方法でも確認できるか」を調べる。作成者が一覧と照合する方法で足りるかもしれない。一方、規程で第三者レビューを必須としているなら、その規程が適用される資料ではレビューが提出の必要条件になる。必要性を述べるときは、対象とルールも示す。

2.4 必要条件の図を読む

TOCのゴールツリー(Goal Tree、GT)は、目的と、その達成に必要な条件を図にする道具である。まずは、目的と必要条件の二つだけで、図の読み方を確かめる3。

これらの図では、条件と目的を箱に書き、必要条件の箱から目的の箱へ矢印を描く。矢印を読むときは、「この目的のためには、この条件が必要」と読む。矢印の向きに「これがあれば、目的を達成できる」と読むと、必要条件を十分条件と取り違えてしまう。

図2-1は、資料の合格基準でこの違いを示している。合格している状態をG、項目がそろっている状態をN、数値が正しい状態をVと略している。記号「⇒」は「左が成り立つなら、右も成り立つ」という意味である。「G ⇒ N」は「合格なら、項目がそろっている」、「NかつV ⇒ G」は「項目がそろい、数値も正しければ、合格である」と読む。

必要条件と十分条件の読み分け。合格Gのために必要項目がそろうNが必要で、論理関係はGならばN。一方、この例の合格基準ではNと数値が正しいVを合わせるとGを満たす。必要条件図の矢印と論理式の向きを区別する。
図2-1 上段の矢印は「GのためにNが必要」と読む。下段の式は「NとVがそろえばGを満たす」と読む。

2.5 原因から結果を説明するときに必要な条件

ここまでの合格基準は、資料の状態を判定するためのものだった。次に、「ある出来事が、別の出来事を引き起こす」という因果関係を考える。

第1章の例では、山田さんが上司からチャットで受けた直近5件の依頼のうち3件に、資料を何時までに渡すかが書かれていなかった。山田さんは、その3件で上司に期限を尋ね、返事を待ってから作業を始めていた。依頼に期限が書かれていないだけでは、山田さんが作業を待つことまでは説明できない。期限が分からなくても、先に作業を始められる場合があるからである。

この3件の対応を説明するには、「山田さんが上司に期限を尋ねている」「上司からの返事がまだ届いていない」「山田さんはその依頼では、返事を待ってから作業を始める」という条件を合わせて考える。これらがそろっている間は、山田さんが作業を始めずに待っていることを説明できる。他の依頼にも同じ説明を使うなら、期限が分からない場合に山田さんがどのように対応していたかを確かめる。

TOCの現状ツリー(Current Reality Tree、CRT)は、現在起きている困りごとを原因や条件でつなぎ、なぜ起きるかを調べる道具である。未来ツリー(Future Reality Tree、FRT)は、変更案からどんな結果が生じるかを予測する道具である。どちらも、原因と条件を合わせれば、その結果を説明するのに足りるかという、十分条件に基づく論理を使う。

ただし、「これらの条件がそろえば結果が生じる」と書くだけで、現実の因果関係が確かめられるわけではない。実際にその条件があり、その対応をしていたかを、記録や当事者への確認で調べる。因果関係の調べ方は、第3章で詳しく扱う。

最後に、先ほどの資料の例で「レビューを実施したので、この資料は合格だ」という報告を点検してみる。レビューという行動名だけでは、何を確認したかが分からない。合格と判断するには、項目の記載と数値の正しさの両方を確認できたかを尋ねる。

項目の記載だけを確認できた段階なら、報告は次のように書ける。

必要項目は一覧と照合しました。数値はまだ確認していないので、合格の判断はその確認後にします。

このように、実施した方法と、確認できた条件を分けて報告する。自分の仕事でも「実施したから大丈夫」と説明している箇所を選び、何を満たせば大丈夫と判断できるのかを書き出してみる。


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  1. Dettmer(2007)、p.59、Mabin(1999)、PDF pp.3–6。資料の合格基準と記号を使った作例は、本ガイドの解説である。 ↩

  2. Dettmer(2007)、Appendix E、p.363。本章では、推論の形式と前提の真偽を区別する意味で説明している。 ↩

  3. Dettmer(2018)、Chapter 2、Dettmer(2007)、pp.166–168。 ↩