第7章 会社が大きくなれば仕事も増える?
第5章の食品工場では、商品を全部価値どおりに売ると2万円の剰余価値が残りました。材料や設備、労働力への支出を補ったあとの増え分です。その2万円を資本家が全部自分の買い物に使う場合と、次の生産を広げるために使う場合では、その後の動きが違います。ここでは会社が生産を広げるときに、お金と働き手に何が起こるかを考えます。
増えたお金を次の元手に
説明用に資本家が8000円を自分の消費に使い、残りの1万2000円を追加の材料や労働力に使うと仮定しましょう。もとの支出を補うお金は別に確保したうえで、さらに生産を広げるために使います。剰余価値の一部を新しい資本に変えることが「資本の蓄積」です1。単にお金を財布にためておくこととは違います。

図7.1: 剰余価値2万円のうち8000円は資本家の消費に使われ、再投資する1万2000円は追加の資本になります。
追加の材料や労働力を使って生産し、その商品を売ってまた剰余価値を得れば、そこからさらに資本を増やせます。今日の働き手が生んだ増え分が、次には材料や設備を買い、別の働き手を雇う元手になります。会社の成長を最初の出資者が出したお金だけで説明できません。
もちろんお金を出せば何でもすぐに増産できるわけではありません。買える材料や設備があり、必要な仕事をする人がいて、その人たちの生活を支える品物も必要です。社会の他の仕事でそれらが作られていなければ、手元のお金だけでは足りません。一社の生産を広げることも、他の人々の生産に支えられています。
成長する会社と仕事を待つ人
会社が新しい工場や売り場を増やせば、追加の人手を必要とする場合があります。しかし投資は雇う人数を増やすためだけに行われるわけではありません。機械を入れ替え、前より少ない人で多く作れるようにする場合もあります。使う材料や設備が増えて資本が大きくなっても、働く人数が同じ割合で増えるとは限りません。

図7.2: 生産規模の拡大による採用の増加と、機械への置き換えによる働き手の減少を比べています。
図では事業を広げることで仕事が増える動きと、機械で人を置き換える動きを分けています。社会全体には採用を増やす会社と、人を減らす会社が同時にある場合もあります。機械が増えれば仕事が必ず全部なくなるとも、会社が成長すれば誰もが安定した仕事を得るとも言えません。
生産から押し出された人や十分な仕事を得られない人は、次の採用を待つ側に回ります。マルクスは資本が必要に応じて雇えるこうした人々の層を「産業予備軍」と呼びます2。予備軍という言葉は、工場や会社が生産を急に増やすとき、雇える人がすでにいることを表します。雇う側は人が育つまで何年も待たずに、生産の拡大に対応しやすくなります。
働く人の能力や努力が足りないから、この層ができるという説明ではありません。会社がその時点で雇いたい人数より、仕事を求める人が多いという関係です。社会にやるべき仕事がまったくない、という意味でもありません。
仕事を求める人が多ければ、雇う側は提示した条件を受け入れる人を見つけやすくなります。今働いている人も、仕事を失えば次を見つけにくいと感じ、賃金や時間の改善を求めにくくなる場合があります。採用を待つ人の存在は、雇われている人の条件にも関わります。マルクスは会社の成長と雇用の不安定さを、同じ資本の動きのなかで考えています。
| ← 前:第6章 剰余価値を増やすと仕事はどうなる? | 目次 | 次:第8章 利益の取り分はどう決まる? → |