第6章 剰余価値を増やすと仕事はどうなる?
前の章の食品工場では、8時間の仕事を必要労働4時間と剰余労働4時間に分けました。資本家が剰余価値を増やそうとすると、この区切りはどう変わるのでしょうか。一日を長くする方法と、一日が同じまま内訳を変える方法を比べます。
一日を二時間延ばしたら
一日分の労働力の価値と賃金を2万円、一時間に生む新しい価値を5000円のままにします。労働の強さも変わらないと仮定しましょう。10時間に延ばしても、賃金2万円に相当する価値を生むには4時間が必要です。残りは10時間から4時間を引いた6時間になります。剰余価値は5000円×6時間=3万円です。もとの2万円より1万円増えました。

図6.1: 必要労働を4時間に保って労働日を8時間から10時間へ延ばすと、剰余労働が4時間から6時間へ増えます。
労働日を延長して剰余価値を増やす方法を「絶対的剰余価値」の生産として考えます1。現代の残業代が必ずゼロになる、という説明ではありません。ここでは賃金などを固定して時間だけを延ばしました。賃金や労働の強さも変わるなら、その変化を計算に入れます。
働く人には食事や睡眠、学ぶことや人付き合いの時間が必要です。一方、資本家には買った労働力を長く使いたいという動機があります。買い手にも売り手にも権利があると認めるだけでは、一日が何時間かは決まりません。長く働かせたい側と自分の力を保ちたい側の対立が残るからです。
仕事を失う不安があると、一人では長時間労働を断りにくい場合があります。働く人々が共同で制限を求めると、個人の契約を越えた争いになります。原著はイギリスの工場でこうした争いが続き、1833年の工場法などの時間制限が作られた歴史を追います。働く時間は技術だけで決まらず、雇う側と働く側の力関係にも左右されます。
機械が増やすものは何?
次は一日を8時間のままにする方法です。現代の例として、おにぎりを握る機械を考えましょう。同じ時間で多く作れるようになれば、一個を作るための人の労働は減ります。ただし商品の価値には米などの材料を作る労働と、機械を作る労働の一部も含まれます。握る作業だけで商品全体の価値は決まりません。
マルクスの説明では、機械はそれを作った過去の労働の価値を、消耗した分だけ商品へ移します。今行われる人の労働は新しい価値を加えます。機械が多くの役立つ品物を作れることと、新しい価値を生むことを区別しています。

図6.2: 機械は既存の価値を消耗分ずつ移し、今行われる労働は新しい価値を加えます。
技術が社会全体に広がり、食べ物や衣服などを少ない労働で作れるようになると、同じ暮らしを支える品物の価値が下がります。それに伴って労働力の価値が下がれば、必要労働も短くなります。どんな商品の生産性が上がってもよいわけではありません。生活に必要な品物や、それを作る材料・道具の生産性が関わります。
同じ8時間でも区切りが動く
必要労働が4時間から3時間になる場合を仮定しましょう。同じ暮らしを支える品物の生産に、前より少ない労働しか必要なくなったとします。一時間に生む価値と労働の強さは同じで、労働力の価値の低下に合わせて賃金も下がるという条件です。一時間に5000円を生む例なら、必要労働3時間に対応する労働力の価値と賃金は1万5000円になります。8時間から必要労働3時間を引けば、剰余労働は5時間になります。一日を延ばさずに一時間分増えました。

図6.3: 同じ8時間の労働日でも必要労働が4時間から3時間へ短くなると、剰余労働は4時間から5時間へ増えます。
必要労働を短くして剰余労働を長くする方法を「相対的剰余価値」の生産として考えます2。生活に必要な品物も価値どおりの価格で買えるとすれば、この仮定では賃金が下がっても同じ品物を買えます。生活を切り詰めさせて働く力を安く買いたたく場合とは区別します。実際の賃金がいつどれだけ動くかは、この計算だけでは決まりません。
機械には負担を減らす可能性があります。しかし資本家が機械を長く動かし、作業の速さを上げれば、働く人が前より忙しくなる場合もあります。少ない人で生産できるようになれば、仕事を失う人も出ます。便利な機械があるだけでは暮らしの変わり方は決まりません。誰が持ち、何のために使い、働く時間や人数をどう決めるかが関わります。次の章では投資が雇用に及ぼす影響を考えます。
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