4. 問いに合わせて思考プロセスを使う

仕事で変えたいことがいくつもあると、原因を調べる話、改善案を出す話、実行方法を決める話が混ざりやすい。たとえば「資料の修正が重なる」という困りごとに対して、「確認を増やそう」という案が出たとする。その確認で何を見つけたいのか、実際に誰が対応できるのかも考える必要がある。

TOCの思考プロセスでは、調べたいことに合わせて図の形を選ぶ。原因を調べる図には出来事とそのつながりを、対立を調べる図には双方の要求と行動を分けて書く。関係を一つずつ点検すると、説明に足りない情報や、確かめるべき前提を見つけやすくなる。前の章までに学んだ必要条件、十分条件、推論の点検を、仕事の問題に使うための道具である1。

道具は、基本となる「何を変えるか」「何に変えるか」「どのように変えるか」という問いに対応している。すべての図を順番に完成させる必要はない。いま判断したいことを一つ選び、それに合う道具から使い始める2。

4.1 いま確かめたいことから選ぶ

最初から目的がはっきりしていなくても、「依頼の確認が多い」「修正が重なる」「新しい受付方法を試したい」といった、変えたいことから始められる。まず、困っている出来事、望む変化、方法の案を分ける。そのうえで、次のどれを確かめたいかを選ぶ。

困りごとの原因を調べたい

現状ツリー(CRT)は、現在起きている困りごとを、原因と結果の関係でつなぐ図である。複数の困りごとに共通する原因があるか、ある出来事が別の困りごとを生んでいるかを調べる。

一つの箱には、一つの出来事や状態を具体的な文で書く。「修正が多い」とだけ書くと、何をどれだけ直したのかが分からない。箱を矢印でつないだら、「この原因と条件があれば、その結果が生じると考えられるか」と読む。つながりが説明できない箇所では、条件の不足や、別の原因がないかを調べる。

何を達成すればよいかを整理したい

ゴールツリー(GT)は、目的と、その達成に必要な条件を整理する図である。目的の直下に、達成に欠かせない主要な条件である「重要な成功要因」を置き、さらに必要な条件へ分ける。

第2章の内容確認を短い例にすると、目的は「この資料が合格基準を満たす」、必要条件は「必要項目がすべて記載されている」と「数値がすべて正しい」になる。二つの条件を分けて書けば、項目を確認した後にも、数値の確認が残っていると分かる。

線は「これがなければ、上の目的や条件を満たせないか」と読む。便利な連絡方法や、好みの担当の置き方を、そのまま必要条件にはしない。何を改善とみなすかが決まっていない場面では、誰のどんな目的に対する条件なのかを先に確かめる。

双方が違う方法を譲れない理由を調べたい

クラウド(EC)は、対立する行動と、その行動で満たしたい要求を分ける図である。共通目的、二つの要求、対立する二つの行動の五要素を書く。共通目的がまだ合意されていなければ、候補として置く。

第3章の完成版のケースなら、「明日に完成版を出すか」だけで争わず、比較の相談に必要な情報と、未確認の内容を確定扱いしない要求を分けた。線を読むときは「この要求を満たすために、その行動が必要だと考えるのはなぜか」と問う。必要だと考えている前提が変われば、別の方法で要求を満たせるかを検討できる。

変更案で何が起きるかを予測したい

未来ツリー(FRT)は、変更案からどんな結果が生じるかを、原因と結果の関係でつなぐ図である。望む結果までの筋道だけでなく、望ましくない結果に至る筋道も調べる。

線は、現状ツリーと同じく「この原因と条件を合わせれば、その結果を説明するのに足りるか」と読む。ただし、未来ツリーに書く結果は、これから確かめる予測である。次の節では、資料の修正を減らす案を使って、この読み方を練習する。

実行に移る前に「何が妨げになるか」を整理したい場合と、「次の行動をなぜ行うか」を説明したい場合も、使う図は異なる。この二つは、4.3節と4.4節で同じ例を使って比べる。

4.2 現状の説明と、変更後の予測をつなぐ

第3章の架空のケースでは、最近修正した資料4件のうち、3件が必要項目の追加で、1件が計算誤りだった。項目を追加した3件では、作成前に必要項目が作成者へ共有されていなかった。依頼者がいつ必要項目を把握したかは、まだ分かっていない。

現状ツリーの考え方を使うなら、項目を共有しなかった理由から、初稿での欠落、提出後の追加までのつながりを調べる。依頼者が項目を把握していたのに伝えなかったのか、作成前には依頼者も把握していなかったのかで、変える対象は異なる。計算誤りを同じ原因で説明できるかも、別に確認する。

次に、変更案を考える。ここでは「依頼者が作成前に必要項目を把握できる」と仮定し、必要項目を一覧にして初稿と照合する案を選ぶ。未来ツリーの考え方を使い、この案を実行したら何が起きるかを、条件を添えて書く。

未来ツリーの短い因果の枝。下から上へ、必要項目の一覧を作る行動と依頼者が正確に説明できる条件から、合意した一覧が手元にある状態を予測する。正しく照合する条件を加えて項目の有無の把握を、提出前に抜けを追記する行動を加えて一覧の項目が初稿にそろうことを予測する。
図4-1 未来ツリーの短い因果の枝を使った教材用の作例。

図は下から上へ読む。「かつ」の丸には、合わせて考える文がつながっている。次の順に、一段ずつ予測している。

  1. 作成前に依頼者と必要項目の一覧を作り、依頼者が必要項目を正確に説明できれば、合意した一覧が手元にある。
  2. その一覧と初稿を正しく照合すれば、各項目の記載の有無を把握できる。
  3. 見つけた抜けを提出前に追記すれば、提出する初稿に一覧の項目がそろう。

この枝を使うと、何を確認する必要があるかが分かる。まず、依頼者が作成前に必要項目を説明できるかを確かめる。次に、初稿と正しく照合し、見つけた抜けを追記できるかを調べる。

図で予測している結果は、「一覧で合意した項目が初稿にそろう」ことである。計算の正しさや、提出後に追加される項目への対応は、別に検討する3。

副作用を調べるときは、望ましくない結果へ至る因果も書く。この部分を負の枝という。たとえば、一覧を確認してもらう相手が一人に集中し、確認の件数がその人の対応余力を上回る場合を考える。回答を得るまで着手できない運用なら、着手待ちが増えるおそれがある。

この仮説を確かめるには、誰に確認が集中し、その人が何件に対応できるか、回答を待つ運用になっているかを調べる。待ちが生じる条件が分かれば、その条件を変える案も検討できる。

4.3 実行を妨げる障害を整理する

必要項目の一覧を作ると決めても、項目を判断できる相手や参照できる資料が分からないことがある。この場合は、確認先を特定することが実行上の課題になる。前提条件ツリー(Prerequisite Tree、PRT)は、このような実行上の障害と、障害を越えるために達成する状態を整理する図である。途中で達成する状態を「中間目標」と呼ぶ。

次は、確認先が分からない場合に、障害と中間目標を一組書く練習例である。

整理すること 記入例
目指す状態 対象資料の必要項目を、作成前に確認できる。
障害 誰が必要項目を判断できるか、まだ分かっていない。
中間目標 必要項目を判断できる相手、または参照できる資料が特定されている。

中間目標には「依頼者に聞く」という行動ではなく、達成した状態を書く。尋ねても確認先が分からなければ、障害は残っているからである。行動を選ぶときは、「聞くことを終えたか」ではなく、「判断できる相手や使える資料が分かったか」を確かめる。

障害が複数あれば、それぞれに中間目標を置き、達成する順序に必要な関係があるかを調べる。たとえば、確認先を通じて必要項目を確かめる進め方なら、先に確認先を特定しておく必要がある。この必要条件の関係をつないでPRTを組む。

4.4 次の行動と、その理由を説明する

確認先を探す方法として、「依頼者に、項目の判断者と参照資料を確認する」という行動を考える。ここでは、なぜ確認先を特定する必要があるかに加えて、なぜ依頼者に尋ねると確認先が分かると考えるかも説明したい。

移行ツリー(Transition Tree、TT)は、現状から次の状態へ進む行動と、その必要性、予測する結果を論理でつなぐ図である。前提条件ツリーで「何が満たされれば障害を越えられるか」を整理したのに対し、移行ツリーでは「何を行い、どんな条件があれば次の状態へ移れるか」を詳しくする4。

次の表は、行動の説明に必要な情報を書き分ける練習例である。

確認すること 記入例
現状 必要項目の確認先が、まだ分かっていない。
次の状態が必要な理由 確認先を通じて必要項目を確かめる進め方なので、判断できる相手か参照できる資料を先に特定する必要がある。
行動 依頼者に、項目の判断者と参照資料を確認する。
行動から結果を予測する条件と筋道 依頼者が判断者や参照資料を把握していれば、問い合わせによって確認先の候補を得られる。
予測する結果 必要項目の確認先の候補が分かる。

「確認先が不明なので、特定する必要がある」という説明だけでは、依頼者に尋ねて分かるかは判断できない。依頼者自身が確認先を知らなければ、その問い合わせだけで中間目標は達成できない。行動の必要性と、行動で結果が得られる条件を分けると、次に何を確かめるかが具体的になる5。

問い合わせで候補が得られたら、その相手や資料で本当に必要項目を確認できるかを調べる。そこまで確かめて、4.3節の「確認先が特定されている」という中間目標に達したと判断する。

4.5 予測を試し、分かった範囲で報告する

図に書いた条件や関係は、記録、当事者への確認、観察、試行で確かめる。第3章の論理の点検基準(CLR)を使うと、「そもそもその出来事は確認できているか」「その条件だけで結果を説明するのに足りるか」と、点検する箇所を選べる。図の筋道が通っていることと、現実にその結果が起きることは分けて確かめる。

必要項目の一覧を使う案なら、作成前の一覧、照合前の初稿、発見した抜け、提出版、提出後の修正を残して試す。その記録から、一覧にあった項目が初稿に記載されていたか、照合で抜けを見つけられたか、提出前に補えたかを確かめる。

この1件で一覧の項目がそろっても、手戻り全体が減ったとは判断できない。全体への効果を調べるには、何を手戻りとして数えるかを定め、案件の種類や作業量などの違いも踏まえて比較する必要がある。

自分の仕事で使うときは、まず「何を判断したいか」を一文で書き、4.1節から対応する道具を選ぶ。次に、その道具で分けるべき情報を書き、結論に影響する未確認の条件を一つ選ぶ。最後に、現時点で言えることと、次に確かめることを短い報告や相談に戻す。資料のケースなら、たとえば次のように書ける。

必要項目を一覧にして初稿と照合する案を検討している。この方法は、依頼者が作成前に必要項目を説明できることを条件としている。まず、依頼者がどの時点で項目を把握できるかを確認する。

この練習では、図を大きくすることより、判断に必要な情報を分けて書けたかを確かめる。関連する困りごとや要求が増えたら、道具の全体へ検討を広げる。


前:3. 推論と前提を点検する | 目次 | 次:参考文献と確認範囲

  1. Mabin(1999)。現状、目的、対立、予測、実行を関連づけて点検する体系としての位置づけは、参照資料を比較した本ガイドの整理である。 ↩

  2. Kim, Mabin and Davies(2008)、Dettmer(2018)、IntroductionとChapter 2。問いから道具を選ぶ案内は、本ガイドの整理である。ゴールツリーを入口に置くDettmer(2018)と、Kimらの基本の五道具は同一の構成ではなく、Dettmerの2007年版と2018年の概説書でも、道具の配置や詳しく扱う範囲は異なる。 ↩

  3. Dettmer(2007)、Chapters 4、6。図とケースは本ガイドの作例である。 ↩

  4. Dettmer(2007)、p.27、pp.297–299、TOCICO Dictionary(2012)、p.126、transition treeのUsage 1。TOCPA(2015)の公開説明も、行動、その必要性、期待する結果を支える論理を区別している。 ↩

  5. Dettmer(2007)、pp.294–299、TOCICO Dictionary(2012)、pp.126–128。移行ツリーには構成の異なる版があり、辞典も2つの構成を示している。本文の表は、行動の理由を説明するための記入例である。Dettmer(2007)は、作成負担などを踏まえ、詳しくしたPRTとプロジェクト管理を組み合わせる進め方を採用している。 ↩