第9章 作れるのになぜ仕事が止まる?
工場には設備も材料もあり、働きたい人もいます。商品を必要とする人がいるのに、注文が減ると生産を止め、人を雇えなくなる場合があります。作る力があるのになぜ仕事が止まるのでしょうか。生産した商品を売り、お金を回収するところまで追ってみましょう。
商品を作ってもお金はまだ戻らない
会社は材料や働く力を買い、商品を作って売ります。使ったお金を回収できるのは代金を受け取ったときです。商品を作る間にも賃金や次の材料代を用意する必要があるので、生産ができるだけでは事業を続けられません。

図9.1: 資本はお金から材料・設備・労働力、商品へと形を変え、販売によってお金に戻ります。
図は一つの資本が形を変えて一巡する動きを示します。実際の会社では、倉庫の商品を売る間にも次の商品を作るなど、複数の段階が同時に進むことがあります。販売によって商品の価値をお金として受け取ることを「価値の実現」と呼びます1。売るだけで新しい価値をもう一度作り足すわけではありません。また価値どおりに売れるとも限らず、値下げや売れ残りで回収する額が変わります。生産で価値が加わることと、いくらのお金を受け取れるかを分けて考えます。
欲しい人がいても売れるとは限らない
食品を必要とする人がいても、代金を払えるとは限りません。会社は材料代や賃金を補い、利益を得て売れるかを考えます。人々が必要とする量と、会社が利益を得て売れる量は一致しない場合があります。
また会社が売るのは家庭で使うものだけではありません。材料や機械のように、別の会社が生産に使うものもあります。食品工場が次の注文を減らせば、材料の売り手や設備を作る会社の売上も減ります。人々の買い物と会社同士の売買の両方が、生産を支えています。

図9.2: 設備、材料、働き手があっても、利益を得て売れる見込みが崩れると生産が縮む場合があります。
それぞれの会社が売れると見込んで生産を広げても、すべての商品を利益の出る条件で売れる保証はありません。売れ残りがたまれば仕入れや生産を減らし、その影響が他の会社にも広がります。ここで「作りすぎた」というのは、社会の誰ももう商品を必要としないという意味ではありません。利益を得て売れる範囲に対して生産が過剰になることです。
「あとで払う」が会社をつなぐ
食品工場が材料を受け取り、代金を一か月後に払うと仮定しましょう。材料の売り手は将来の支払いを見込んで、先に品物を渡します。工場は商品を売ってから材料代を払えます。商品の後払いや銀行からの融資のように、将来の支払いを見込んで商品やお金を渡す関係を「信用」と呼びます2。信用を使えば、すべてのお金が手元にそろうまで待たずに生産できる場合があります。
ただし支払いの約束は、すでに受け取った代金とは違います。工場の商品が売れず材料代を払えなくなると、材料の売り手はあてにしていた代金を受け取れません。そのため、自分の仕入れ先に払えなくなる場合があります。会社同士は商品だけでなく、支払いの時期と約束でもつながっています。
銀行から借りて支払いをつなげる道もあります。しかし返済できるかを銀行が不安に思い融資を絞れば、その道も使いにくくなります。後払いを認めていた売り手も、先に現金を求めるかもしれません。信用で回っていた生産に、急に多くの支払い用のお金が必要になります。

図9.3: 売上不足から支払いの遅れ、注文や生産の減少、信用の縮小へと問題が広がる経路です。
支払いのために商品を安く売れば、見込んでいた回収額がさらに小さくなる場合もあります。人を雇う時間を減らせば、その人たちの買い物に使えるお金も減ります。販売、生産、支払いの問題が互いを強めると、一社の困難から広い範囲で仕事が止まる状態へ進みます。原著が調べる「恐慌」にはこうしたつながりがあります3。
利益の見込みが生産を左右する
図は一つの経路で、すべての不況が同じ理由と順序で起きると決めるものではありません。働く人の消費の制限は重要ですが、「人々が十分に買えないから」だけでは、なぜ特定の時期に急に崩れるかまで説明しきれません。どの産業がどれだけ投資したか、利益をどう見込んだか、取引や信用がどんな約束でつながっていたかも関わります。
工場には作る力があり、人々は商品を必要としています。それでも利益を得て売れなければ、会社は生産を続けられなくなる場合があります。マルクスは、人々の必要を満たすための生産が、資本を増やせるかどうかに左右される仕組みを調べています。最後の章では買い物へ戻り、こうした人々のつながりが値札の背後にあることを考えます。
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