第2章 時間をかければ価値は上がる?
おにぎりを手に入れるには、稲を育て、米を炊き、おにぎりを握る仕事が必要です。ノートを手に入れるには、紙を作り、印刷・裁断し、綴じる仕事が必要になります。前の章では、これらの商品が交換されることを説明しました。マルクスは交換を成立させるのは「仕事」だと考えました。
作業が違っても仕事は仕事
おにぎりを作る仕事とノートを作る仕事は、目的も道具も手順も違います。このように目に見える仕事を「具体的労働1」と呼びます。具体的な仕事によって、具体的な商品が生まれます。さらにその商品を使用することで、使用価値が生まれます。
一方、商品を交換するときには、それぞれの仕事を量的に比較します。具体的な仕事の違いは考慮しません。人間の労働であれば「同じもの」として扱います。これを「抽象的労働2」と呼びます。マルクスはこうした共通の仕事が商品に反映されたものを「価値(value)」と呼びました。日常的には「この商品には300円の価値がある」とも言いますが、ここで使う「価値」は店の売値とは別物です。価値と売値の関係は次の章で説明します。

図2.1: 仕事には具体的労働と抽象的労働があります。
2時間かけて作ったTシャツの価値
労働の量とは、すなわち「働いた時間」です。それでは、商品を作るのが遅い人ほど、高い価値の商品を作れるのでしょうか?マルクスは時間をそのまま商品の価値にしたわけではありません。
たとえば、Tシャツを縫う工房を考えましょう。通常であれば1枚を1時間で縫えるのですが、慣れない人がやると2時間かかります。これらを他の商品と交換するとしましょう。外からは縫う工程は見えません。したがって、仕事が遅い人が縫ったTシャツであっても、通常のTシャツと同じ価値で交換されます。2倍の時間をかけたからといって、2倍の価値にはならないのです。
労働の量を見るときには、平均的な仕事の時間を使います。これを「社会的必要労働時間(socially necessary labour-time)」と呼びます。個人が時間をかけて仕事をしたかどうかは関係なく、その商品を作るときに「社会」で「必要」な「労働」の「時間」はどれくらいかを表したものです。

図2.2: Tシャツを縫うのに2時間かかっても社会的必要労働時間は1時間です。
一人の作業が遅くても社会の標準は変わりません。それでは、一般的な作り方が変わり、社会全体で短い時間に多くの商品を作れるようになると、どうなるのでしょうか?
| ← 前:第1章 おにぎりの2つの顔 | 目次 | 次:第3章 生産性が上がったら価値はどうなる? → |